この世には、決して開けてはならない帳面と、座ってはならない椅子があるらしい。
人の一生を左右する「合格」という二文字も、その一つだ。
三者面談で教師は言った。
「今のままでは無理です。一つ下の学校に――」
母親は首を横に振った。
「あの子は、日本一の大学でなければ意味がないのです」
その夜、母親は町外れの廃屋を訪ねた。
そこにいたのは、額に小さな角を生やした「鬼ジジイ」だった。
「日本一の大学に、息子を合格させてほしい」
鬼ジジイはしゃがれ声で笑い、黒いカラスを呼んだ。
「三面大天満宮の大神様に聞いてこい。席があるかどうかをな」
戻ったカラスは首を振った。
「帳面は閉じられている」
「お願いします」
母親は土下座した。
「誰かを落とすことになるぞ」
「構いません。うちの子の方が価値があります」
再びカラスが飛び、鬼ジジイは言った。
「奉納が要るそうだ。金額は決まっていない。誠意を見せろとな」
母親は三面大天満宮へ三百万円を持って行った。
裏口に通されたが、大神様は「お会いにならない」。
次は一千万円。
答えは同じだった。
三度目に鬼ジジイを訪ねると、母親は泣き崩れた。
「もう何もありません。でも、合格だけは……」
最後のカラスが戻り、鬼ジジイは肩をすくめた。
「『もうよい。席は空けた』そうだ」
半月後、日本一の大学の掲示板に、息子の番号があった。
母親は叫びながら部屋へ飛び込んだ。
「合格よ!」
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