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ヒトコワ

あさみさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

Fくんの親切
短編 2025/12/13 19:18 125view

Fくんの話。

高校の同級生Fくんは真面目な男で、成績もよく、明るく気さくな性格だった。

私は県外に進学、就職し、この前帰省した。街中でFくんとばったり会い、少し話をした。

彼の表情は少しばかり暗かった。どうしたのかと思ったとき、1人の年配女性が近づいてきて、声をかけてきた。

「あの、すみません。公民館はどちらですか?」

女性はやや焦った様子で、腕時計を気にしている。なんでも公民館でお孫さんの発表会があるそうなのだが、道に迷ってしまったらしい。Fくんは私が口を開くより先に、

「あっちですよ。あそこの角を曲がって2本目の道を左です」

と言った。指さす方向は、なぜか公民館の正反対だった。

私もFくんも地元なのでよく知っている。公民館は反対方向だ。えっ、と思ったとき、Fくんに目線で制された。何も言うな。彼の目ははっきりそう言っていた。

思わずたじろいだとき、女性はお礼を言ってFくんが指したほうへ歩いていった。

女性が見えなくなってから、私は尋ねた。

「えっ、Fくん、公民館って逆じゃん? なんで?」

しかしFくんは、私が話し終わらないうちから首を横に振り始め、

「違うんだ。来るんだよ。正しい道を教えちゃうと、俺の家に来るんだよ」

なんでも好青年のFくんは、知らない人によく道を聞かれるらしいのだが、親切に正しい道を教えてしまうと、夜にその人が家に来るらしい。

毎度毎度、ひと晩じゅう精気のない顔で、Fくんのドアモニターを見つめているらしい。

「今んとこ、知らない人に道を聞かれたら、全然違う道を教えるって解決方法で助かってるけどさ」

Fくんは重い口調で続けた。

「おれ、よく写真撮ってくれとも頼まれるんだよ。もし、そいつらまでおれんちに来るようになったら、どうしたらいいんだろうか。最近は他人の落としたものを拾ったり、ちょっとした親切も、なんか怖くてな……」

Fくんの親切心には、この世に巣食う何かを惹きつける力でもあるのだろうか。

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