Fくんの話。
高校の同級生Fくんは真面目な男で、成績もよく、明るく気さくな性格だった。
私は県外に進学、就職し、この前帰省した。街中でFくんとばったり会い、少し話をした。
彼の表情は少しばかり暗かった。どうしたのかと思ったとき、1人の年配女性が近づいてきて、声をかけてきた。
「あの、すみません。公民館はどちらですか?」
女性はやや焦った様子で、腕時計を気にしている。なんでも公民館でお孫さんの発表会があるそうなのだが、道に迷ってしまったらしい。Fくんは私が口を開くより先に、
「あっちですよ。あそこの角を曲がって2本目の道を左です」
と言った。指さす方向は、なぜか公民館の正反対だった。
私もFくんも地元なのでよく知っている。公民館は反対方向だ。えっ、と思ったとき、Fくんに目線で制された。何も言うな。彼の目ははっきりそう言っていた。
思わずたじろいだとき、女性はお礼を言ってFくんが指したほうへ歩いていった。
女性が見えなくなってから、私は尋ねた。
「えっ、Fくん、公民館って逆じゃん? なんで?」
しかしFくんは、私が話し終わらないうちから首を横に振り始め、
「違うんだ。来るんだよ。正しい道を教えちゃうと、俺の家に来るんだよ」
なんでも好青年のFくんは、知らない人によく道を聞かれるらしいのだが、親切に正しい道を教えてしまうと、夜にその人が家に来るらしい。
毎度毎度、ひと晩じゅう精気のない顔で、Fくんのドアモニターを見つめているらしい。
「今んとこ、知らない人に道を聞かれたら、全然違う道を教えるって解決方法で助かってるけどさ」
Fくんは重い口調で続けた。
「おれ、よく写真撮ってくれとも頼まれるんだよ。もし、そいつらまでおれんちに来るようになったら、どうしたらいいんだろうか。最近は他人の落としたものを拾ったり、ちょっとした親切も、なんか怖くてな……」
Fくんの親切心には、この世に巣食う何かを惹きつける力でもあるのだろうか。
























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。