父が亡くなってから母は都市部で単身赴任しており、私はとある山の麓にある集落の祖父母の家に預けられていた。
母とはたまにしか会えなくて寂しいが、自分のために頑張っていることは知ってる。
祖父母に私に何かできないか聞いたら、
「元気な姿を見せるのが一番。」
と言われた。
でも、何かしたいと言ったら、
「昔、お母さんも岬と同じ中学校に通っていてな。
歌うのが好きで特に合唱祭を頑張っとった。
岬が頑張って練習した歌を聴ければ、お母さんも幸せだろうなぁ。」
と言ってくれた。
私が通う中学校は全校生徒30人くらいで、廃校寸前だ。
それでも毎年、保護者向けの合唱祭が開催される。
人数が少ないので、全校生徒で3曲歌う。
今年の課題曲は「夢の世界を」「マイ・バラード」「君をのせて」だ。
去年、母はどうしても仕事を休めず、合唱祭には来れなかった。
今年こそは私が聴きに来てほしいとお願いしたら、仕事を休んで聴きに来てくれるらしい。
しかも、合唱祭の何日か前から祖父母の家に泊まってくれるらしい。
だから今年の合唱祭は私にとって特別なものだった。
来年、母が聴きに来ることができるか分からないので、自然と練習にも熱がこもった。
合唱祭まで後1週間になった時、とある地元の神社に合唱祭の成功を願って願掛けをしに行くということになった。
何だかんだ家の用事などで行けない人を除くと、15人ほどで願掛けに行くことになった。
放課後の合唱練習が終わるともう夕暮れ時だった。
茜色の日差しがみんなの汗ばんだ肌を照らしている。
まだ蒸し暑く汗で張り付くブラウスが不愉快だ。
ひぐらしの鳴き声が幾分か気持ちを涼しくしてくれる。
1年生の子もいるのであまり遅くならないように私達は神社へ向かった。
神社は学校から山へ向かう道の途中にあるらしい。
合唱祭のことや、他愛もない話をしながら、
古びた瓦葺きの家々の間の小道を抜け、田んぼ道を抜け、気がつくと山の麓近くまで来ていた。
「山の麓まで来ちゃったけど、もうそろそろ着くの?」
同級生の佳奈が先頭の方に声をかける。
「うーん、もう着いてもいい頃なんだけどな・・・。」
と先頭を歩く上級生の田中先輩が頭を掻く。
ふと、私の制服の裾を引っ張る手があった。
振り向くと幼馴染で1年生の悠君がおずおずと遠くを指差して、
「あれじゃない…?」
と小さい声で言った。
悠君の指差す先に目を向けると、山の麓に鮮やかな朱色の鳥居があった。
私は先頭の田中先輩に聞こえるように大きめの声で
「先輩ー!山の麓に神社があります!」
と伝えたら、先輩が手で了解の合図をし、神社の方向に歩き始めた。
「あんなとこに神社あったっけ?
ほんとに行くの・・・?」
と悠君が私に問いかける。
言われてみれば、あんな新しそうな神社あったっけ?
夕暮れ時で薄暗くなっており、
悠君が怖がってしまうと思い、
「前あった神社を新しいところに建て直したんだよ!」
と言ったが、悠君の表情は晴れなかった。
周りの田んぼや草の茂みから、カエルやコオロギの鳴き声がやけに大きく聞こえる。
みんなが神社の方に歩き始めてしまったので私もそれに着いて行った。
悠君も私の後について歩き始めたが、その足取りはどこか不安げに私には見えた。





















随所に差し挟まれる小賢しいレトリックがいちいち鼻につく。
このサイトの読者層には刺さるのかもしれないけど。
ちょっと意味がわからない