奇々怪々 お知らせ

心霊

久保隆さんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

開いていた窓
短編 2025/08/24 09:49 930view

オフィスは雑居ビルの7階にある。
間取りは細長く、窓は片側に3つ、細長く並んでいる。もともと古い建物なので、開閉のたびに金属がきしむ音がする。

昼休みに一人で書類を確認していたとき、ふと、誰かの視線を感じた。

顔を上げると、一番奥の窓が開いていた。

普段は開けない。
むしろ空調の効きが悪くなるので、開いていること自体がおかしい。

風も吹いていない。
にもかかわらず、カーテンがゆっくりと膨らんで、ふわりとめくれた。

そして、その隙間から、逆さまの人の顔がのぞいた。

若い女の人だった。

青白く、目だけがぎょろりと見開いていて、何かを訴えかけるようにこちらを見つめていた。
顔を逆さにした時特有の、額にうっすらと血管が浮いているところまではっきり見えている。

「……えっ」

驚いて立ち上がったその瞬間、顔はすっと視界から消えた。
窓際に駆け寄ると、ちょうどその真下に、ひとだかりができていた。

誰かが飛び降りたのだと、すぐに察した。
手が震えて、何もできなかった。

警察や救急のサイレンが聞こえる中、同僚たちも外の騒ぎに気づいて出て行った。
けれど、私はどうしても言えなかった。

──落ちた瞬間、私と目が合っていたことを。

次の日、ニュース記事で「身元不明の女性」と書かれていた。

数日経って、社内でも話題にしなくなったころ。
一人で残業していた私のスマホに、通知が来た。

「iCloudに新しい写真が追加されました」

確認すると、ビルの窓から見下ろしたようなアングルで撮られた写真があった。

私が座っているデスクを、誰かが上から見下ろしているような、そんな写真だった。

誰かが、撮った?

いや、あれ以来──開いていた窓は、閉めても朝にはまた開いている。

誰も触っていないはずなのに。

……今、私は、屋上にいる。

1/2
コメント(0)

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。