オフィスは雑居ビルの7階にある。
間取りは細長く、窓は片側に3つ、細長く並んでいる。もともと古い建物なので、開閉のたびに金属がきしむ音がする。
昼休みに一人で書類を確認していたとき、ふと、誰かの視線を感じた。
顔を上げると、一番奥の窓が開いていた。
普段は開けない。
むしろ空調の効きが悪くなるので、開いていること自体がおかしい。
風も吹いていない。
にもかかわらず、カーテンがゆっくりと膨らんで、ふわりとめくれた。
そして、その隙間から、逆さまの人の顔がのぞいた。
若い女の人だった。
青白く、目だけがぎょろりと見開いていて、何かを訴えかけるようにこちらを見つめていた。
顔を逆さにした時特有の、額にうっすらと血管が浮いているところまではっきり見えている。
「……えっ」
驚いて立ち上がったその瞬間、顔はすっと視界から消えた。
窓際に駆け寄ると、ちょうどその真下に、ひとだかりができていた。
誰かが飛び降りたのだと、すぐに察した。
手が震えて、何もできなかった。
警察や救急のサイレンが聞こえる中、同僚たちも外の騒ぎに気づいて出て行った。
けれど、私はどうしても言えなかった。
──落ちた瞬間、私と目が合っていたことを。
次の日、ニュース記事で「身元不明の女性」と書かれていた。
数日経って、社内でも話題にしなくなったころ。
一人で残業していた私のスマホに、通知が来た。
「iCloudに新しい写真が追加されました」
確認すると、ビルの窓から見下ろしたようなアングルで撮られた写真があった。
私が座っているデスクを、誰かが上から見下ろしているような、そんな写真だった。
誰かが、撮った?
いや、あれ以来──開いていた窓は、閉めても朝にはまた開いている。
誰も触っていないはずなのに。
……今、私は、屋上にいる。
























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。