昭和50年頃、私がまだ小学生の高学年の頃の話です。
父の姉、大叔母は再婚してある地方の名士の家に嫁ぎました。義母とも先妻の息子さん
とも仲が良く、特に義母とは朝から夜まで共に食事して姉妹のような暮らしをしていたの
です。旦那さんとなった叔父は、特に働かなくても暮らしていける程の金持ちでした。
屋敷もとんでもなく広くて、巨大な日本庭園の先に森があり庭の突き当りまで家から見え
ないほどの平屋の屋敷でした。
学校が夏休みになる前に大叔母が東京の私の家に来て数日宿泊して行った時に
「夏休みに遊びに来なさい」と言われまして一人で新幹線に乗って、駅で降りてタクシー
乗り場でタクシーに乗り「〇〇さんの家に行ってください」と言ったら本当に着いた時
には驚きましたよ。「タクシーにそう言えば家の前に着くから」と言われていたんです。
この屋敷で朝は大叔母と義母のおばあ様と食事して、あとは夕暮れになるまで一人で遊んで
いました。旦那さんの叔父はちょっと変わっていて、普段は自室に籠ってまして、朝と夕方
の食事の時だけ顔を見る事があります。敷地の中に使用人の住居というアパートのような
建物が建っていて、昔は数人の使用人がいたのですがこの頃は、おばあさまと叔父、大叔母の
三人だけで暮らしてました。ここに三週間ほど滞在した翌年、また夏休みの前に大叔母が
来まして「今年も来なさいよ。おばあさまも叔父様も楽しみにしてるのよ」と言われ
叔父はどうやら私が庭で遊びまわっているのを縁側や部屋から見ていたようで、おばあ
さまには「元気な男の子」が新鮮なようで「また呼んできて」と大叔母に頼んだそうです。
こうして二度目の夏休み滞在となったのですが、この屋敷の大きな池の後ろに「鯉の養殖池」
と言うのがありましてね。叔父の祖父以降は使っていないのですが、ポンプは動いてまして
段々畑のようなコンクリの四角形の池が並んでいて上から水が段々と下の池に落ちて、ポンプ
で巡回させてるのです。昨年まで魚などいなかったので近くの川で捕まえたウグイや鮒を入れて
おいたのです。朝の食事のあとに庭に行き、この養殖池を覗くと魚が元気に泳いでました。
わたしはまた川に行きバケツに魚を捕まえて夕方に庭に行くと、養殖池を覗く人を見つけ
ました。(誰だろう?このオジサン?)と思いましたが無言でバケツを持って一番上の池に
魚を放すと、そのオジサンがニコニコしながら私のほうを見てるのです。
「キミか、魚をいれたのは」と少し低い声で言い頷いて笑っているのでした
「どこで採ってきたの?〇〇川かな?」と聞くので「はい、橋げたの下で」と答えると
「うんうん、そんなにいるのか。いいなあ」と頷いて二段目の養殖池を覗いているのです。
白髪の頭、細身で白いシャツにベルトを締めたズボン、足元はサンダルでした。























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