私が小学生だった頃に体験した話です。
関西地方の田舎で生まれ、父と母と私の3人で慎ましいながらも幸せに暮らしていました。
両親は共働きで家にいないことも多く、学校が終わった後も家に1人でいることは珍しくありませんでした。
それに対して寂しいと思うことはなく、我ながら達観した子供だったように思います。
ある日の夜、父が「〇〇寺に行こう。」と言いました。〇〇寺は地元では有名なお寺で、とても大きな仏像が何体もあることで知られていました。
呼応するように母が「じゃあ準備しなきゃね。」と言って、2階から和風な正装のような服を持ってきました。こんな服どこにしまってあったんだろうと疑問に思いましたが、言われるがまま服を着せられ皆でお寺まで歩いていく運びになりました。
お寺までは歩いて20分ほどの距離があり、道中は田舎特有の切れかけた街灯が頼りなく照らす道を行くことになります。
さすがに少し怖くなり、「お父さん、今日はお寺で何があるの?」と会話のきっかけにと父に質問をしました。
しかし、父は私に一瞥もくれず、ただただ黙々と歩いていきます。
静まり返る田舎の夜道、私の声が届いていないはずがありません。
普段優しい父の、いつもと違う雰囲気に圧倒されそこから私は何も言えなくなってしまいました。
色々もやもやした気持ちを抱えながらも、私達は目的地の〇〇寺に到着しました。
お寺には我々以外にも多くの人がおり少しほっとしました。
もう一つ目についたのが、お寺の最もひらけた場所にある大きな篝火です。
絶えず薪がくべられ、火はバチバチと音を上げ近づくのが怖いほどに火の粉を散らしていました。
篝火に気を取られていると、近くにいたお坊さんに声をかけられました。
「本日はようこそいらっしゃいました。では参拝の仕方をお教えしますね。」
お坊さんはとても優しい笑顔で、子供の私にも丁寧な言葉遣いで話してくれました。
また、今日連れてこられたのは参拝のためであることを理解しました。
「まず、お子さん1人で本堂を回ってください。一本道ですので進める方にずっと歩いて行ってくれれば大丈夫ですよ。最後にご両親と一緒にお賽銭箱の前でお祈りをしてください。」
相変わらず優しい笑顔でお坊さんは言います。
“1人で”というワードを聞いて、ああこれは子供の度胸試しみたいなものなんだなと勝手に理解しました。
怖がっている子供を見て大人が慰める構図になんとなく腹が立ち、そうはなるものかと強がって「じゃあ行ってくる」と両親とお坊さんに別れを告げ、出発しました。
本堂は何度か回ったことがあり、大体の道筋は覚えていました。ただ、以前来たのは明るいときだけで、日の落ちた時間に回るのは初めてでした。
冒険のようなドキドキと、帰って来れるのかなという不安からか、ギリギリ両親の姿が見えるかというところで振り返りました。
























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