私は東北地方の県の出身で、その中でもかなり田舎の方に住んでいました。
父親の職業は住職、いわゆるお坊さんです。
主に敷地内のお墓の管理や檀家さんとのやり取りを仕事にしていました。
村では唯一のお寺であり、地方柄なのか故人に対する思いが強く、檀家さん方はなんでもないような時でも墓参りに訪れるため、父は非常に忙しそうに見えました。
父は温厚な性格の人で、どんな人にも優しい自慢の父親でした。
そんな父が一度だけ、私に怒ったことがあります。
それは父と、敷地内の掃除をしている時に私がお墓のお供物をこっそり食べようと手を伸ばした時でした。
「やめなさい!!」
駆け寄ってきた父は怒りに満ちた顔、ではなく悲しい顔をしていました。
そして私の目をしっかりと見て、
「それをしたら人ではなくなる
〇〇はそんなことをしてはいけない」
出来心とはいえ、悪いことをしてしまったと思った私は何度も何度もごめんなさいをしました。
父は私の頭をなで、もう二度としないことを約束し許してくれました。
父は住職として、自分の娘がお供物に手を出したなんてことが檀家さんに知れたら大変なことになると考え、私を叱ったのだと思っていました。
ある日の夜、私は外から聞こえる小さな音で目が覚めました。音は小さいが継続的に聞こえてきます。
窓からお墓のある方を覗いてみると、何か大きな布?みたいなものが、風に揺られながらお墓の前にずっといるのです。
なんだろうと思った私は、隣で寝ている父をトントンして起こし、あれは何?と窓の方を指差しました。
父は窓の外を覗くと、少し冷たい顔で
「なんでもないよ、寝なさい」
と言い、私を優しく布団に連れて行き
眠れるまで側にいてくれました。


























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