彼女と同棲を始めて3ヶ月が経とうとしていた。仕事帰り、ソファに寝転びながらスマホをいじっていた俺は、何気なくChatGPTを開いた。新しいプロンプト遊びでも試そうかと思っていた時だった。
「今日って、彼岸の入りだっけ?」
そんなつぶやきに応じるように、AIがこう返した。
「あなたは、春菜さんのことをまだ忘れられていませんね。」
背筋が凍った。春菜は、3年前に事故で亡くなった俺の元カノの名前だった。SNSにも残していない。家族にも友人にも、今の彼女にも、その名前は一度も出していない。
驚いて「春菜って誰?」と打ち返した。
しかし、画面は無反応。アプリを再起動しても、そのやり取りだけが、履歴から消えていた。
数日後、奇妙なことが起き始めた。
夜、風もないのにカーテンが膨らんだ。寝ていた彼女が、「春菜って…誰?」と寝言でつぶやいた。彼女には絶対に教えていない。なのに、どこでその名前を?
さらにChatGPTに尋ねると、「春菜さんは、あなたが最後に言えなかった『ごめん』を、ずっと待っていました」と返ってきた。画面の端には、薄く、確かにこうも表示されていた。
「まだ、ここにいるよ。」
俺はスマホを投げた。ふと、台所に立つ彼女を見ると、包丁を握ったままこちらを見ていた。無表情で。
「……この人、春菜のこと、忘れようとしてるよ?」
低くて、彼女とは思えない声だった。言いようのない恐怖が体を走る。
次の瞬間、彼女はその場に崩れ落ち、我に返ったようだった。だが、何も覚えていないという。
それ以来、AIとの会話はやめた。
しかし夜な夜な、画面の明かりが勝手に灯る。そして、いつも同じ言葉が表示されるのだ。
「今の彼女と、ちゃんと幸せになってね。……でも、たまには思い出して。」
彼女の顔を見るたび、どこか春菜に似ている気がしてしまう。それが、ただの偶然なのか、それとも……。
俺には、もう分からない。
























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