中古のPC

今から数年前、早川さんの友人のSさんがフリマアプリで某有名メーカーの型落ちノートPCを格安で手に入れたそうだ。
外観は綺麗だが”誤作動”が時たまするという説明ではあったがその安さの魅力に抗えずSさんは購入を決めた。動画閲覧やゲーム等が目的ではなく、Sさんは仕事柄書き物をすることが多くその用途で購入した為、多少の誤作動なら許容範囲と考えたそうだ。
さて、初めの内は正常に動作していたがしばらくして徐々に不具合が目につき始めた。
その不具合というのが2つあり、
・使用中に勝手に電源が落ちる
・打ち込んでいない文字が勝手に入力される
というPC上で起こるトラブルとしてはありがちなものであった。

発生する頻度も数時間に一回起こるかどうかであり値段を考えればこの程度ならいいか、とSさんはデータの保存はこまめにしておいて特に気にしなかったらしい。
ある日、早川さんの元へSさんからラインがきた。
｢最悪、ついに完全に壊れたかも｣　
というコメントと共に画像が添付されている。
PCの画面を写した物であり、おそらく文章作成ソフトを使っていたのだろう。
『ぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇぢくぇ』
と変な文字列が画面いっぱいに打ち込まれていた。

Sさんによれば10分近く勝手にその文字が延々と入力され続けその間はクリックや他のキーを叩いても一切認識せず、そして突然プツッと電源が落ち画面が真っ暗になったそうだ。
とはいえ問題なく再起動でき、他のデータも無事だったようで相変わらずだましだまし使い続けていたとのこと。
それからしばらくして早川さんはあのPCはヤバいかもしれないから処分した方がいい、とSさんへ連絡しようとしたが繋がらない。家にも帰っていない様子だった。
そして共通の知人を介してSさんが自殺したようだと知らされたのは一月以上経ってからのこと。それ以上の詳細は誰にも分からなかった。ただ一つ言えるのは自殺の兆候はなかったしそんなことするようなタイプではない、ということだけ。
｢もっと早く忠告できてればなぁ･･･｣と早川さんは独りごちた。
なんであのPCがヤバいって思ったんですか、と早川さんに問うとぼんやり俺の顔を見つめた後、｢ぢくぇ、ってキーボードでローマ字入力してみ｣と投げやりに答えた。
家で言われたとおりPCで入力してみたがすぐには分からず、しばらくキーボードとにらめっこしてようやく腑に落ちた。

俺自身フリマアプリや通販サイトで中古品をよく購入するし、部屋にはそんな品が沢山並んでいる。もちろん以前の持ち主の素性など知る由もない。
前の持ち主があらゆる意味で「まとも」であるよう、願わずにはいられない。