翔子さんには子供が2人いた。
長男の篤(あつし)くんと、2才下の次男の剛(つよし)くんだ。
篤くんは健康で元気だったが、剛くんは持病もあって病弱だった。
医者からは、あまり長くは生きられないとすら言われてしまった。
翔子さんの旦那さんは、給料の高いサラリーマンだから、剛くんの体の為に、お金はたくさんかけることができた。
旦那さんは平日は遅くまで働き、休日は接待でゴルフによくいっていた。
だから、普段は翔子さんが1人で子供たちを見ていた。
剛くんがすぐ熱を出すので、どうしても剛くんにばかり手が掛かってしまう。
篤くんは、相当寂しかったのではないか、と翔子さんは後に言っている。
篤くんは優しくてしっかりしていた。
頭も良くて、教えると何でもすぐに覚えた。
剛くんに手が掛かる時は、篤くんは1人で勉強をしていたり、お母さんのお手伝いをやってくれた。
だからか翔子さんは、篤くんを少しくらいは放っておいても大丈夫と思ったらしい。
剛くんが小学5年生の時だった。
真夜中に突然高熱をだして、救急車で病院に運ばれたのだ。
そのまま入院となり、医師の見立てだと かなり危なく、もって3日と言われてしまった。
家族は焦った。どうしても助かって欲しい!
旦那さんも会社を休んでくれて、家族で剛くんに付き添って病院で寝泊まりをすることになった。
篤くんだけは、学校の時間は登校した。
3日目の朝、篤くんが学校に行く時に両親に、「行ってきます」
と、いつも通りの挨拶をした。
その日は特に剛くんの容態が悪く、篤くんの挨拶は聞こえたが、両親はそれどころではなく、彼を無視してしまった。
篤くんは小さくもう一度、「行って来ます」と独り言のように呟いて出ていった。
翔子さんは篤くんに、心の隅では申し訳ないと思いながら、剛くんのことで目一杯だったのである。
(篤は剛と違ってしっかりしているから、あとでフォローすれば大丈夫だろう)
と、考えていたという。
しかし、篤くんは学校に行く前に、その病院に戻されたのだ。
猛スピードの飲酒運転のトラックに轢かれ、亡くなってしまった。
翔子さんは唖然とした。
(篤は元気なのに……。剛は早く亡くなる可能性があるから、そうならないように優先してきたのに。篤が先に亡くなるなんて……)
篤君は自ら魂になって、剛君に入り込んで助けてくれたのかも知れないですね。
怖い話というよりいい話、さみしい話ですね
いい話