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呪い・祟り

化け學さんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

猫眠る
短編 2024/10/18 20:12 778view

草いきれのする重たい日だった。
父が庭で汗まみれになって穴を掘りながら、ぽつりと独り言のように呟いている。
「猫ちゃん、眠っちゃったみたいだわ」

幼い頃、父は事務所に捨てられた動物をよく家に持ち帰ってきた。最初に拾ってきたのは雑種の犬だった。フワフワした毛で丸っこい姿をしていたから、コロと名付けられた。弟が生まれる前、コロは僕にとって兄弟のような存在で、毎日のように近所の神社まで一緒に遊びに行った。その時の僕の嬉しそうな顔を見て、父は得意気になり、トカゲやヘビなどを次々と家に持ち込むようになった。

小学三年生の時、父が事務所の屋根裏から巣立ち前のスズメの雛を二羽連れて帰ってきた。懐きはしなかったが、僕はその小さな体を愛おしく世話していた。ところが、ある日学校から帰ると、スズメたちの姿は巣箱になかった。母は俯いて謝ってきた。普段は家の中で飼っていたが、鳥が苦手な母は巣箱を庭に出してしまったのだ。気づいた時には、巣箱の中は血まみれで、二羽のスズメは無残に引き裂かれて死んでいた。僕が泣いていると、父が戻り、僕の頭を撫でながら母を叱っていた。

ふと庭を見ると、塀の上から隣家の猫、ベルちゃんがこちらを覗いていた。体には所々血がついている。瞬間、父は「このガキ!」と叫び、庭に飛び出して逃げようとするベルちゃんに石を投げた。それはまっすぐ猫の頭に当たり、ベルちゃんは塀の下に崩れ落ちた。父が一瞬びくりとした。本気で当てるつもりはなかったのかもしれない。父がベルちゃんに近づいて行った。ベルちゃんは舌がダラんと垂れて、目が開いている。
父はそれでも眠ったと言いながら、ベルちゃんを庭の穴に埋めた。

数日後、隣人が猫を見なかったかと尋ねてきた。父は「見かけたら連絡します」と答えたが、その後すぐ庭に向かった。コロがスタスタと父の先を歩いている。向かった先で埋めたはずのベルちゃんは完全に露わになっていた。コロは自慢げに尻尾を振っている。父の顔は動揺に染まり、無言でベルちゃんを黒い袋に入れると、どこかへ車を走らせた。夕方、父は竹を積んで帰ってきた。竹藪に埋めたのだろう。けれど、父が竹馬や竹鉄砲を作ってくれたので、そんなことはどうでもよくなってしまった。

しばらくして、近所の公園裏にある竹藪で蛆だらけの猫の死体を見つけた。蛆で真っ白になり、判別は難しかったが、ベルちゃんのようにも思えた。竹の成長が早いため、地中から押し出されてしまったのかもしれない。あまり管理されていない竹藪だったため、猫の死体は残り続け、僕は怖いもの見たさで朽ちていく様を定期的に見に行った。

その間に、奇妙な夢を見た。

父が家の前の橋から川に向かって石を投げていた。何を狙っているのか覗いてみると、毛布をまとった浮浪者だった。僕も一緒になって石を投げ、やがてその人は動かなくなり、死んでしまった。

そんな夢だった。普段、夢の内容を覚えていることはないが、その後味の悪さが今でもはっきりと残っている。

その後、両親は離婚し、父とは疎遠になった。年に一度、父が生活保護を申請したという書類が父の住む市から届いていたが、ここ数年それすらも来なくなった。亡くなったという知らせもまだない。

ちなみに僕はこの後くらいから重めの猫アレルギーになった。

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