女と猫のいる牢屋
投稿者:化け學 (3)
数年前、大阪の九条に住んでいた頃、かなりの時間を近所のバーで過ごした。
バーと言ってもシャツにタイしたバーテンダーがカチャカチャやるようなのじゃなくて、近所のちょっとイカついニイちゃんが集まる男子校のようなバーだ。居心地がよく、寂しさを紛らわすのに丁度良かったのだ。
ある日、そのバーに珍しく新規の女性客がやってきた。年の頃は30前後だろうか、目力が強く、綺麗な顔をしていた。そのバーに女性がいる事が珍しかったので、みんなでその女の相手をする。
可愛い顔をしているのに中々気が強そうな子で、特に僕に対して強めだった。そのうち、客の一人の筋肉タレントみたいな見た目の北斗さんが、誰がタイプなのか順位を付けてくれと言いだした。最初に選ばれたのは僕だった。ちなみに北斗さんは最下位だったので、「僕には家で愛する妻が待っていますから」と言いながら帰った。
選んでくれたのが嬉しくなって、そこからは僕がその女の相手をした。最初は盛り上げようと頑張っていたのだが、ちょくちょく様子がおかしい事を言うのが気になり出した。食生活もヴィーガンだったり、こだわりが強く、曲げられない部分が多い印象を受けた。何より会話の節々でいちいち攻撃的な言い方をしてくる。これは面倒な子を捕まえてしまったのかもしれないと気付く。
そもそも入口は小窓があるだけでよく中が見えない上に、客も様子のおかしいなんかやってそうな輩しか座っていない。まともな女性客がひとりで入ってこられるような店構えでは無いのだ。
徐々に会話を終わらせるようにして、店長にバトンタッチしようと頑張っていたところに、イヴさんがやってきた。イヴさんというのは同い年のイタリアンのシェフで、料理は抜群に旨いのだが、その代償に他全てが欠落してしまっており、プライベートは落伍者みたいな奴だ。
その日は体良くその女を撒ける口実を探していたので、どっかに飲みに行こうと声を掛けた。
普通は店に来たばっかりだから断りそうなものだが、
「いいね!行こう行こう!」と二つ返事で返してきた。
アホだけどノリは良い。
助かったと胸を撫で下ろしながら、トイレに行って出てきたら、イヴさんがその女も次の店に誘ってしまっているでは無いか。ちゃんと事情も言っていたのに。そんなん可哀想やろとかなんとか言って寝返っている。
結局3人で次の店に梯子する事になってしまった。
なんとなく駅方向に歩きながら、次の店を色々提案するのだが、ヴィーガンだから審査が厳しくて中々決まらない。面倒くさくなったので適当な店に入る事にした。
入った店もちょくちょく行く店だったので、顔見知りが結構いた。女はイヴさんに任せて、僕は別の客と話す事にした。ようやく解放されたな、なんて思っているうちにどうやら女が帰るようだった。支払いはこっちでやるからええよ、ゆうてバイバイしようとしてたら、イヴがほざいた。
「送ったれや!遅いんやから!」
女が入り口で立ち止まってこっちを見ている。
おまえと一緒に呑んどったのになんで俺に振んねんなんて誤魔化したりしながらわちゃわちゃしていると、ピシャっと戸を閉めて出て行ってしまった。
イヴがニヤニヤしてるから腹立って取っ組み合いになる。まあじゃれ合ってるレベルのやつやけど。
内心ホッとしながらプロレスしてたら、突然ガラガラって戸が開いた。
「なにしてるん!行くで!」
帰ってなかった。
「これで帰らんかったら男ちゃうわな」
「店に迷惑掛けてんで!」
矢継ぎ早にイヴがぬかす。黙れカス!
逃げ場がなくなり、結局一緒に帰る事になってしまった。
道すがら女に説教をされる。
「あんなんされて送ってくれへんとか可哀想過ぎるやろ」
確かにそう。ごめんなさい。
「ここまできたらもう家行かせてもらうしか無いやろ」
なんでそんないきなり飛躍するのか分からないけど、とりあえず家とか知られたく無かった。
片付け出来てなくてとか10個くらい無理な言い訳言って、それだけは阻止する。
「それやったらうち来る?近いし」
これはもう腹括るしかない。変な子やけど顔は可愛いしな。
この女はヤバいと思った直感を封じ込める。
押しに弱くて断れない男にイライラする
ねこ 逃がしてあげてほしかった