盗まれた時計
投稿者:ほらりん (21)
古い商店街にひっそりと佇む時計屋。その店は代々受け継がれてきたが、今は誰も訪れない。オーナーの鈴木は、唯一の宝物であるアンティーク時計に執着していた。その時計は伝説的な職人が作ったもので、時間を操る力があると噂されていた。
ある晩、鈴木が店を閉めた後、泥棒が店に忍び込み、その時計を盗んでしまった。泥棒はそのまま闇に消え、時計は二度と戻らなかった。鈴木は絶望し、程なくして命を絶った。
それから数年が経ち、街には鈴木の亡霊が現れるという噂が広まった。彼の幽霊は、盗まれた時計を探し続けているという。
ある夜、若い女性が商店街を歩いていると、突然冷たい風が吹き抜けた。彼女は身震いし、ふと見ると、時計屋の前にぼんやりとした人影が立っていた。それは鈴木の幽霊だった。
彼は女性に向かって手を伸ばし、何かを伝えようとしている。女性は恐怖に駆られながらも、一歩ずつ鈴木に近づいた。鈴木の口からは、かすれた声で「時計…返して…」と聞こえた。
女性はその後、地元の古物商から盗まれた時計を見つけた。時計を手にした瞬間、彼女は不可思議な感覚に包まれた。時計の針が勝手に動き出し、時間が巻き戻るような感覚に襲われた。
彼女は急いで時計屋に戻り、時計を店の棚に戻した。その瞬間、鈴木の幽霊が現れ、穏やかな表情で消えていった。
その後、商店街には再び活気が戻り、時計屋も新たなオーナーのもとで繁盛するようになった。だが、夜が更けると、店の中からかすかに鈴木の声が聞こえるという。「ありがとう…」
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