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ヒトコワ

kwaidanさんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

アレックス・クーパー失踪事件
短編 2024/09/17 08:15 1,046view
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1987年4月、霧深い朝、ライラという女性が、夫と共に早朝ドライブに出かけようとしていた。
まだ薄暗いその時間、彼女は川沿いに父親アレックスの車が停まっているのを見つけた。いつものように釣りに来たのだろうと思い、様子を見に行ったライラだったが、車内に父の姿はなかった。釣り道具はそのまま積まれていて、何も手をつけた様子がない。不安が胸をよぎり、彼女はすぐに母親マーガレットに連絡を取った。

母によれば、父は前夜には仕事から戻るはずだったが、まだ帰宅していないという。アレックスとマーガレットは1952年に結婚し、5人の子供と3人の孫に恵まれ、地元の名士としても尊敬される夫妻だった。クリーニング業を営む傍ら、最近では食品配達業も始め、順風満帆な日々を送っていた。しかし、65歳のアレックスが突然姿を消したのは、家族が彼の引退後の穏やかな生活を夢見ていた矢先のことだった。

失踪の知らせを受け、警察はすぐに大規模な捜索を開始したが、何の手がかりも得られないまま数日が過ぎた。アレックスが最後に目撃されたのは、街角でヒッチハイクをしているという噂に過ぎなかったが、これすらも確証がない。家族はわずかな希望にすがりつつも、日に日に募る不安と悲しみに押し潰されそうになっていた。

それから一年が経ち、家族は苦渋の決断を迫られた。何も解決しないまま日々が過ぎる中、彼らはついにアレックスの死亡届を申請することを決めた。しかし、その申請は驚愕の事実を家族に突きつけた。「アレックス・クーパーという名の出生証明書は存在しない」と役所は告げたのだ。つまり、アレックスという人間は、法的には最初から存在していなかったことになる。

家族が困惑し、真相を探り続ける中、数年後、遠く離れたトロントで新たな情報が舞い込んできた。あるアパートで行方不明になった男の捜索中、その部屋からアレックスの写真が見つかったのだ。警察が調査を進めると、アレックスと思しき男が再び姿を現し、警察の動きを察して慌てて荷物をまとめ、再び逃亡したという。一体、アレックスは何から逃げているのか?家族はますます混乱し、恐怖と不安に苛まれていた。

半年後、ついにアレックスは警察に逮捕された。彼の本当の名前は、アレックスではなくアルビン・アーセナルドであった。1948年、彼はオンタリオ州北部で駅長をしていたが、鉄道事務所から高額の債権が盗まれ、その容疑者として疑われていた。厳しい取り調べに怯え、彼は逃亡を決意し、アレックス・クーパーという偽名で新たな生活を始めたのだった。

40年もの間、家族にも友人にも真実を隠し続けたアレックスは、年金を受け取る際に本当の出生証明が必要だと知り、秘密が暴かれる恐れに恐怖し、再び逃亡した。しかし、彼が逃げ続けていた理由は既に失われていた。盗難事件の真犯人は逃亡直後に捕まり、アレックスには何の罪もないことが判明していたのだ。だが、彼はその事実を知らず、虚構の人生を背負ったまま、家族に嘘をつき続けた。

全ての真実が明るみに出た時、アレックスは家族の元へ戻る決意をした。しかし、40年に及ぶ嘘は、家族の心に深い傷を残していた。マーガレットは彼を再び受け入れることができず、二人は離婚。その後、関係は友情に変わり、アレックスは静かに家族と過ごす日々を送った。

真実が解き明かされたものの、彼の長い逃避行が家族に与えた傷は、決して癒えることはなかった。彼が背負っていたのは、罪ではなく、恐怖と後悔だったのだ。

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コメント(2)
  • 婚姻届けは実名で出したんですかね。ドキュメンタリーぽくて面白かった。

    2024/09/17/16:13
  • せつないな

    2024/10/15/21:16

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