白装束の女
投稿者:有野優樹 (6)
地方で配達業をやっているゆかさんが、独り暮らしの男性宅へ荷物を届けたときに体験したことを話してくれた。
いつも通り配達をしに行ったある日のこと。
草木の生い茂る車道をはしらせ、その男性の家に向かった。この道を通るのは住人の男性か配達の人くらい。住宅街の外れにある家の周りには建物はなく、緑に囲まれた庭は手入れがされていないため昼でも薄暗い。虫か鳥の鳴き声しかしないような静かな場所だった。
家の前にエンジンをかけたまま車を止め、小走りで玄関に行き、古く味のある引き戸をカラカラっと開ける。
「配達でーす」
鍵を閉める習慣がない地域なので、雨に濡れないように中に荷物を置く。家の中に人の気配はなく、リビングを覗くが男性の姿はなかった。
玄関を閉め車へ戻ろうとしたとき、なんとなく振りかえると庭に出るための窓ガラス。少し開いたカーテンの向こう側に人が立っている事に気づいた。
ついさっきリビングを見た時には誰も居なかった。だが、今は誰かがいる。目を細めよく見てみると、白装束を着たボサボサ頭の女が背を向け立っていた。
「誰!?」
白装束がよれるくらいの細身で5.60代に見えるその女は、何かを覗き込むかのように少し前屈みになっている。そこには、ベビーベッドがあった。なぜそこにベビーベッドが?という疑問もあったが、足がすくみ女から目が離せなくなってしまった。
するとその女は、ゆっくりと首を横にむけ始める。こちらを振り向こうとしているのだ。このままだと目があってしまう。そう思った瞬間危機感を覚え、すぐに車へ乗り走り去った。
それからもこの男性宅へ何度か配達に行っているが、あの女を見たのはこの時だけだった。
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