ニコニコ

高校の同窓会があった。
皆食べたり飲んだりして楽しい一時を過ごし、私もH奈（仮名）とスイーツを食べながら話をしているとA（男）が近寄ってきた。
なんとAはH奈に、Y下さんと会ってはいないかと尋ねてきたのだ。H奈は首を横に降った。Aは無表情で「そうか」と呟き、男性の輪に戻っていった。

私はH奈に
「そう言えばY下さんって同窓会に来たことないよね」
と、ふと気になった疑問を投げ掛けた。

H奈は、Y下さんは…N子はこの同窓会に来ることはないと思うと私に言った。
え？なんで？
私はH奈に聞くと、H奈はN子と仲違いしてしまったらしかった。しかも、さっきのAのせいで。

ここであの頃を振り返る。

高校時代のAは、Y下N子（仮名）にちょくちょく話かけてはニコニコしていた。対してY下さんはAのことを徹底的に無視していた。
クラスの女子数人はそれを見てはコソコソ話していたんだ、Y下さんって冷たいよねって。
Y下さんって大人しかったから、なんていうかH奈以外と交流していなかったからさ。なんか掴めなかったんだよね。H奈以外は彼女を知るきっかけがなかったというか。

それに比べてAはクラスメートとはそこそこ交流していたし、男友達は何人もいたし、部活はスポーツ系だったし性格も普通だったと思うから……そりゃ他所からみればAのほうが普通の人って見なされていたんだと思う。だから自然とAの味方をしていたわけだよ、一部の女子達は。
私もY下さんってクールで何考えているのか分からない子って印象だった。

ある日、文化祭の準備で私達は遅くまで残っていた。明日は文化祭本番だと言って皆忙しなく動いていた。
なんとか準備を済ませて、細々なものを片付け終わると女子はワイワイ話していた。ある女子が急にコイバナでもしようとクラス全員の女子を集め始めた。H奈は面倒臭いなと思いながらも、ハイテンションな女子集団の輪に入っていった。Y下さんもH菜と並んでいたーー。
男子には聞こえないように、どの男子がいいか話していた。すると話の流れでAが話題に出てきた。すると女子の一人が
「Y下さんはいつもAに話しかけられているけれど、なんで無視しているの？」
と直球な質問をしたのだ。

急に話を振られたので固まるY下さん。そんなY下さんに構わず、皆Aに優しくしてあげなよとか好き勝手にY下さんに突っ込む。
Y下さんは固い表情でようやく口にしたのは、
「た、タイプじゃないから」
の一言だった。それを聞いた女子達は「えー！？」と反応していた。今思うと皆でY下さんをからかっていたんだな。

H奈はここら辺を覚えているか私に尋ねてきた。私は首を縦に降った。
H奈はあの女子達のコイバナのあと、Y下さんと二人で帰った。その帰りのときにH奈は突っ込んでしまったのだーーなんでAを無視するのかを。

Y下さんはH奈には、理由を話してくれた。
要約するとこうだ。
Y下さんとAは同じ中学だったようだ。でも中学では同じクラスになったことがなかった。
だが中学二年の時は同じ委員会だった。その時のAは冷たい印象で、Y下さんはちょっと近寄りがたかったんだって。中学三年の体育祭でAから声をかけられたことが一度あるけれど、その内容を今は忘れてしまった。高校に進学して同じクラスになったら急に下の名前で呼んできた。今までは名字で呼び捨てだったのに「N子ちゃん」って呼んできた。男友達と話ながら自分を見てきては、ニコニコしながらテストの点数はどうだったとか聞いてきた。無視してもニコニコしながらY下さんを見てくる。
AはY下さんに無視されたあと、また男友達とニコニコしながら話している。それがはっきり言って気持ち悪いから生理的に無理だった。ーーという旨をH奈に話したそうだ。