2号室:バス
投稿者:うずまき (21)
ある朝。
いつものバス停に着くと、そこには明らかに挙動のおかしい中年女性がいた。
他に人はいない。
胸元辺りまで無造作に伸びた黒髪はまるで海藻のようにべったりと顔に貼り付いている。
着ているのは白いニットだろうか?薄汚れて黄ばんだそれには様々なシミが至る所にこびり付いていた。
下半身を纏う赤いスカートはまるでボロ布。
そして不釣り合いな黒の長靴。もちろん今日は快晴だ。
『嫌なタイミングで来ちゃったなあ…。』
そう思ったが次のバスを待つ程、時間の余裕もない。
仕方なく昇降口辺りに立ち、早く来いと恨めしそうにバスの到着を待っていた。
「…っ!」
次の瞬間、早足で私の真後ろにその女がぴったりと密着してきた。途端に生臭い息が肩越しに漂う。
驚きと不快さで反射的に距離を取った矢先、タイミングが良いのか悪いのかバスが来た。
慌てて車内に転がり込むと、女は車内でも真後ろを陣取った。ガラガラに空いているのに。
ようやく停留所に着き、開いたドアから降りかけた瞬間、ものすごい力で髪を掴まれた。
声にならない声を漏らして振り返ると、わたしの髪は女の湿った髪とキツく結ばれていた。
「っ!!」
目が合った瞬間、ニタニタと口角を吊り上げた女の顔。
もう無我夢中で痛みも忘れ、思い切り髪を引き寄せた。
「ギャッ。」
女の短い声が聞こえたが、必死で走ってバスを後にした。
その日、私はショートカットにした。
怖い
本当に怖い時って声が、出ませんよね。