【呪い】といふものは
投稿者:ねこじろう (147)
「うるせえなあ、分かったよこんな家出て行ってやるよ!」
そこは昭和の終わり頃に作られた、碁盤の目のように区画された住宅街の一角にある一軒家。
夕飯時に母とつまらないことで喧嘩になり引くに引けなくなった満男は、精一杯の捨て台詞を吐き玄関を飛び出した。
勢いよく金属の門を開き薄暗い路地を歩き出す。
古い住宅に挟まれた狭い路地を彼は街灯を頼りにただひたすら歩き続けていた。
それから幾度めかの角を曲がり歩き進んだ辺りで
「ぼうやぼうや」
いきなり右手の暗がりから女の人の低い声がする。
満男はその方に視線をやりドキリとした。
視界に入ったのはどこかの家の赤茶けた金属の門。
その門の隙間の向こうに女の白い顔がボンヤリとある。
彼がドキリとしたのは女が突然現れたからというよりも、その顔がまるで「オカメ」のお面のようだったからだ。
彼女の片手に持たれたランタンの灯りが不気味に浮かび上がらせているのは、桃割れの黒髪にまるで白粉を塗したような肌をした下膨れの顔。
並んでいる二つの目はミジンコのように細くて鼻は団子鼻、口はおちょぼ口だ。
割烹着姿でミジンコのような細い二つの目をさらに細めながら
「まあまあ、ぼうや泣いているの?
かわいそうにねえ、さあこっちにおいで」と言ってから門を開き手招きする。
満男は「い、、いえ」と言い、その場を離れようとしたのだが女は彼の手首を掴むと半ば強引に敷地内に引き込もうとしだす。
そのあまりに熱心な様子に根負けした彼は素直に従うことにした。
女はランタンをぶら下げ玄関のところまで歩くとドアを開き
「さあお入りなさい」とまた手招きする。
それで満男は女の言う通り、玄関の中に入って行った。
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