お告げ
投稿者:綿貫 一 (31)
「私ね、昔からたまに、おかしなものを見るんだ――」
相談がある、と言って私を呼び出したヒナコは、目の前に置かれたお冷やに手を伸ばすが、コップをつかみ損ねて危うくひっくり返しそうになる。
「ちょっと、大丈夫?」
おしぼりを片手に、彼女に声をかける。
午後の喫茶店。
私たちの座る窓辺の席には、穏やかな陽光が射し込んでいる。
小さく流れるジャズミュージック。
店内に、客は私たちしかいなかった。
白髪頭のマスターが、注文していたホットコーヒーをふたつ、テーブルの上に置いて去っていった後、私は問いかけた。
「それで? おかしなものって?」
ヒナコは、コーヒーカップに視線を落としたまま、ぽつりぽつりと話し始めた。
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あのね。
はじめて「ソレ」を見たのは、小学6年の時。
その時、私、飼育委員だったの。
初耳?
そうだよね、マイちゃんと話すようになったのって、同じクラスになった中2の頃からだもんね。
それからもう20年かぁ、なんかすごいよね。
それでね、それは、小6の夏休みのことだったんだけど――。
当時、飼育委員はね、飼育小屋で飼われていた鶏たちの世話をしに、夏休みの間も交代で登校してたんだ。
だいたい、5日に1回くらいのペースだったかなぁ。
面倒くさかったけど、エサあげないと死んじゃうからさ、彼ら。
8月の中旬だったと思う。
本当は、いつもふたり一組なんだけど、その日は相方が急に、風邪をひいただか家族旅行だかで、私ひとりで世話することになっちゃって。
用務員のおじさんに飼育小屋の鍵を借りて、「夏休みなのにえらいね」とかなんとか言われて。
それでも、「なんで私ばっかり」って、ブツブツ文句を言いながら小屋に行ったんだ。
覚えてる? 校庭の隅にあった飼育小屋。
狭くて、まわりに貼られた金網もだいぶ傷んでた、あのオンボロの鶏小屋。
あそこにオス1羽、メス3羽が飼われてて。
トサカにコッコにチキンにカラアゲだっけ。今思うとひどい名前だよね。
小屋は中でふたつの部屋に分かれてて、片方の小さな部屋に鶏たちを閉じ込めて、その間に、ほうきでフンを片付けたり、水を取り替えたりなんかしてたんだ。
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