ビルの隙間
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
某県F市で一番の繁華街のTという地区がある。
その一帯は空港が近くて建築物に高さ制限があり、東京や大阪のような高層ビルを建てる事が出来なかった。
しかし近年、規制緩和や市長の肝入りで「Tリボーン(仮称)」という計画が推し進められていて、次々とビジネスセンターなどの高層ビルの建設が盛んになっている。
築年数が古かったり背が低いようなビルや、隣り合った2棟のビルを一つの大きな高層ビルに建て替えるといった計画だそうだ。
聞いた話によると、そんなビルとビルの隙間には、小さな神社があるらしい。
例えば、東京銀座の狭い路地に小さな神社があるという話は有名だ。
しかし、T地区にあると言われている神社の場所や、その数は公表されていない。
ここからは、T地区で昔からの住民である重鎮のHさんから聞いた話だ。
数年前の事、その神社の噂を聞きつけたあるテレビ局がHさんに取材を申し込んだ。
Hさんは神社を管理している本家である神社からは、そのような取材は一切断るように言われていた。
神社が人目に触れると、そのパワーというのか、神社としての機能や効果が無くなるらしいのだ。
それを知っているHさんは頑なに取材の依頼を断り続け、結局、テレビ局は取材をあきらめた。
その後Tリボーン計画が進むにつれて、建築現場ではニュースにならないような些細な事故が増えたという。
決まった場所に置いてあるはずの資材がそこからはみ出していて作業員がぶつかったとか、平らに均したはずのコンクリの地面に躓いて誰かが転んだとか、事故とも怪我とも言えないような、そんな小さな事が立て続けにあったらしい。
Hさんがそんな話を現場監督から聞いていると、小さいとはいえそこに祠があるとどうにも作業しにくい事がわかり、ひとまず祠を5メートルほど動かしたという事がわかった。
Hさんはどうしてそんな大事な事を一言言ってくれなかったのかと現場監督に抗議すると同時に、些細な事故はそれが原因ではないかと指摘した。
どうやら、祠は複数あるらしくて、それらはきちんと計算された場所に祀られているため、その一つでも場所が狂うと互いのバランスが崩れて災いが起きると考えられた。
幸いというか、祠を動かしたのはその日の作業が終わった夜の事で、実際に動かしたのは監督を含めた数人だけだったから、人目につくことはほとんど無かった。
しかし、これはきちんとお祓いをして、祠を一旦離れた所に引っ越しをした後、工事が終わったらまたしかるべき場所に正式に戻すという案をHさんと神社で計画すると、現場監督はこれを了承した。
ただし、できるだけ人目に付かないように、最低限の人数の立会いの下、お祓いと引っ越しは深夜に行われる事となった。
それ以来、ささいな事故は無くなった。
その後、新しくできたビルを内見した人によると、妙に不自然な場所に取って付けたような壁やドアが建てつけてあり、そこには「STUFF ONLY」とか「関係者以外立入禁止」といったプレートが張り付けてあったそうだ。
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