来訪者
投稿者:vichu (6)
友人から聞いた話。
友人が大学生だった頃の話だ。(その友人をAとする。)
Aには鳥取県に住む祖母がいた。Aが俗に言う「おばあちゃんっ子」だったため、夏休みや年末年始等長期の休みにはその祖母の下で過ごしていたようだ。滞在の間何をするのかと聞くと、のんびりと過ごすのだという。普通大学生ともなれば旅行へ行ったり交友を広げるのに勤しむものだが、Aは東京の大学に通っていたので、そういった静寂が恋しくなるのだろう。一面田畑のひろがる、良く言えば穏やかな田舎町、悪く言えば何も無い場所なのだそうだ。
ある夏休みのこと。日中は数年前から変わらない近所を散歩し、夜はテレビの地方番組を観ながらちびちび飲っていたそうだ。
時刻は深夜の一時。早寝早起きの祖母はもうとっくに床に就いている。肴として摘んでいたナスの揚げ浸しやきゅうりの浅漬けも尽きたため、そろそろ自分も寝るか、と思って椅子から立ち上がる。
コンコン
その時、唐突に玄関のドアをノックする音が微かに聞こえた。
時刻が時刻だったため、ビクリとする。こんな夜中に一体誰だ?非常識ではないか。
コンコン
だが田舎のご老人は早起きだし、今から農作業に取り掛かる近所の知人かもしれない。何よりこんな夜中に訪れるという事は、きっと急用なのだろう。そう考えると急に怖くなくなり、待たせてしまって申し訳ないとすら思った。
コンコン
少し急ぎながらリビングから玄関へと向かい、廊下から玄関へと繋がるドアを開ける。すると、
ドタドタドタ
誰かが走り回る音がする。なんだ!?と思いながら音の出処を探っていると、先程通ってきた廊下の奥から祖母が走ってきた。
「あんた、まだ出てないよね!?」
目を見開いた硬い顔でそう尋ねてくる。普段は穏やかでいつもニコニコしている祖母のこの豹変。Aは何か恐ろしいものを感じ、
「い、いや…今出ようと思ってたところ…」
「いけん!」
祖母はピシャリと言い放つ。そして、近くに立て掛けてあった突っ張り棒を手に取ると、玄関のドアを
ガンッ!
と思い切り叩いた。すると 、
コンコン
祖母はそれを聞くと、呼応するように
ガンッ!
と殴りつける。
コンコン コン
ガッ!
コン コン ゴン
ガン!
しばらくの間その応酬が続いたが、そのうちノックの音はしなくなった。それでも祖母はじっとドアを睨みつけている。
結局祖母が飛び出してきてから、二十分位の出来事だった。
祖母が棒を置き、Aの方を向く。その顔は何時もの穏やかで優しい顔に戻っていた。
「さぁもう寝んさい。」
だが有無を言わさぬ芯のある口調だった。こんな事があったので寝る気はすっかり消え失せてしまったのだが、そのまま素直に寝室へ向かった。スマホをいじりながらまんじりと朝を迎えた。
時刻は四時、日は少し顔を出し、外は優しい光に包まれていた。
昨夜の出来事はなんだったのだろう。少しずつ明るくなっていく世界を見ていると、あの出来事が急に輪郭のぼやけた、変な夢だったように感じる。そう思いながら裏口出てから中庭を回り、玄関の方へと歩く。するとドアに、べったりと少し乾いた泥のようなものが付いていた。幅二十センチ、高さは大人の男性の腹部辺りの高さだろうか。よく見ると、細長い葉のようなものも混ざっていた。
夢では無かった。震える声で祖母を呼ぶ。すると台所で朝食を作っていた祖母が来た。
「ばぁちゃん…これ…」
祖母は一瞥すると、ハンッと鼻を鳴らし、バケツで水を汲んで汚れたドアへぶちまけた。三回ほど繰り返すと、泥はすっかり落ちて綺麗なドアに戻った。
Aは呆気に取られながらその様子を見ていたが、我に返り昨日の出来事について尋ねる。
「ばぁちゃん…昨日のは…」
「あぁ…気にせんでええよ。どうせこっちが拒絶してやれば入ってこれん。大したもんじゃないけぇ」
「…俺近所のかっちゃんか誰かかと思ったんだけど」
「インターホン押してたね?声掛けられた?」
「….えっと…」
「いくら田舎ゆうて、今時ノックしかせんってのはねぇよ」
おばあちゃんが頼もしすぎる
この手の話しの危ないモノやそんなしょっちゅう来るモノなら最初に教えといてと思う
名前言えないとかならやべーもん来るから出んなでいいわ