【short_79】突撃してくる猫
投稿者:kana (210)
まだ19、ハタチくらいの学生の頃。友人、と言うか、少し年上のバイトの先輩がいた。
ボクも彼も貧乏学生ではあったが、陰キャなボクに比べて陽キャな彼は、トークもうまいし、割と遊び慣れている感じだった。ただ、陰キャからするとちょっとうるさいのが難点で、あと、よく「お金貸して」と言ってきた。彼に貸して戻って来た試しがないので、後半は断っていた。おかげで「うわー、ボクも今お金ないんです」と、この言葉だけは陰キャでも堂々と言えるようになった。
そんな彼が、ある夏の晩にドライブに連れて行ってくれるという。なんのアポもなしで突然だ。これが陽キャというものなのか。ボクは彼のクルマの助手席に乗り、夜の山下公園なんかに連れて行ってもらった。・・・何が悲しゅうて男ふたりで・・・とも思ったが。
事件はその帰りに起こった。
走るクルマに突然『ドンっ!』と衝撃が走り、彼はブレーキを踏んだ。「うわっ・・・」
声を上げて振り返ると、今通って来た道に猫が横たわっている。そしてしっぽだけをバターンバターンと激しく打っている。
「うわっ・・・猫轢いちゃったよ~どうしよう~・・・クルマに傷ついてないかなぁ・・・」
彼はそう言うと再びアクセルを踏み、走り出した。
「えっ!?」ボクは驚いて彼の横顔を見る。(あのまま放置して逃げる気!?)
ボクは再び振り返った。横たわる猫の傍らに、仔猫らしき姿が見えた。それはどうやら横たわる猫の首筋を咬んで、どこかへ引っ張って行こうとしているようだった。親子に違いない。
きっと自分たちの巣に連れて帰りたいのだろう・・・が、遺体はびくともしなかった。
「ねぇ、ちょっと、戻ろうよ!!」
「いや~ここ一方通行だし、ダメだよ」
彼はそのままアクセルを吹かした。ボクは無言となり、車内は沈黙した。
帰ってからもあの猫の最後の姿が脳裏に焼き付いて眠れない。
もう心の中で冥福を祈るばかりだった。
それからというもの、バイト先で会う先輩は、だんだん陽キャが剥がれて暗い顔つきをすることが多くなっていった。
「あれ以来さ・・・クルマに乗っていると毎晩のように『ドンっ!』って何かが当たったような衝撃を感じるんだよ・・・でもなにも轢いてないんだよ・・・毎晩だよ!?いったいなんだと思う?」そんなことを言っていた。
「さぁ・・・?」ボクはそう言うのが精いっぱいだった。(呪われたんじゃないですかね~お祓いでもしてもらった方がいいですよ~)とは言わなかった。・・・陰キャなので。
彼とはその後、二度と会うことはなかった。
kanaです。ひっどい胸糞な話だなぁ・・・と書いてて思いましたが、さらに言うとコレ、実話なんよね・・・。
ネコは
怖いよ
こうやって、猫の話をアップすると、猛毒の六価クロムの槽に落ちた猫が逃げているという恐ろしいニュースが流れる。