【short_46】沖釣り

ススキノで飲んだ帰り。バッタリ古い友人に出会った。高校以来もう何十年かぶりだ。
立ち話もなんだからと、一杯飲んで行こうと誘ってみたが、用事があるらしく断られた。

「じゃ、また近いうちに飲むべ!」・・・そんな風にして別れようとしたものの、
なんだか歯切れが悪い。何か言いたそうにモジモジしているので、
「なんだよ、なにか言いたいことがあるんじゃないのか?」と少し改まって聞いてみた。

「あ、あぁ・・・オレ、明日沖釣りに行くんだ」(少し声が震えている)

「へぇ、いい趣味してんじゃん、沖釣りとなるとなかなか本格的だな」

「マ、マグロ釣りに行くんだ」

「マグロ~?へぇ~すごいな!!　(北海道の海でもマグロ獲れるんだなぁ)」

「い・・・いや、嘘だ・・・本当は人を殺しに行く・・・」

「えっ?なんて!?」

「漁船で沖まで行って・・・沖まで行ったら突き落として殺す・・・予定だ」

「マジで言ってんのか?」

「オレはヤクザだ。やらなきゃ今度はオレが殺される」

「おまえ・・・」

遠くにヤクザの仲間らしきやつらがいて、こっちを伺った。
友達は急に明るい顔になった。まるで作り笑いのように。

「ワリィワリィ、全部ウソだ!　忘れてくれや!　・・・また今度飲むべ!!」

そうしてその友人とは別れ別れになったが・・・
それ以来、彼とは連絡が取れず、再び会うことは叶わなかった。