形見の人形
投稿者:藍咲 青 (11)
昔、我が家で起きた話です。
母が小学生の頃の話なので今から40年程前の事。母の姉はピアノを習っていました。家に来るピアノの先生(以下S先生)はピアノを教える傍ら人形作りが趣味でよく家に手作り人形を持ってきてくれたそうです。最初は小さな紙人形から始まり次にぬいぐるみや市松人形と段々本格的になっていったそうです。
そんなある日、S先生が1体の人形を持って来ました。芸妓(?)さんの人形で高さが60cmはあるかなり大きなもので表情や衣装までもがかなりリアルに作られていました。そして「この人形が私が作る最後の人形になるかもしれない」と暗い表情で話し自身が末期ガンである事を告げ、ガンは既に全身に転移しており最期にお世話になったお礼にと家に人形を持って来られたそうです。その後S先生は入院となったのですが当時の医療では手の施しようがなく末期ガンという事もあり緩和療法のみ行っていたそうです。祖母はよくS先生の見舞いに行ったそうですがその姿はとても痛々しく、緩和療法の甲斐もなく苦痛に悶え苦しみ更に「家族も身内も誰一人としてお見舞いに来ないの。私こんな所で死にたくない!!」と叫びベッドの上で泣きながら暴れていたと祖母から聞きました。その後しばらくして先生は亡くなりました、けれど先生の家族は誰一人として最期に立ち会う事はなく代わりに祖母が看取ったそうです。S先生が亡くなってから数年が経った頃、我が家で異変が起き始めました。
まずS先生が最後に作った人形の色が変わりました。元々は薄いベージュ色の肌に頬紅や口紅を指していた人形が気付くと色が落ち真っ白になっていたそうです。最初は湿気か何かで塗料が落ちたのだろうと思い人形に化粧を施すのですが数日も経たずに化粧が落ち何度化粧をしてもしばらくすると真っ白になってしまうという異変が始まりました。次に人形が置いてある部屋だけが異常に寒くなる事態が発生しました。真夏の暑い日でもその部屋だけは異常に寒く、冷房とは違い悪寒に近い寒さを感じるのだそう。そしてその部屋に入ると常に人形からの視線を感じ気持ち悪くてとても居れなかったと母含め親族一同語っていました。こういった出来事が頻発しあまりにも気味が悪いのでケースに布を被せ置き場所を変えたそうですが異変が収まる事は無く、ある日人形を見ると表情が変わり口が開き何かを喋りだしそうな様子に変わっていてもう我が家ではどうする事も出来ないので先生のご実家に事情を話し人形を引き取って貰う事になりました。
祖母は身内に供養してもらえればきっと大丈夫と思ったそうですが、そんな期待とは裏腹に先生の母親から「人形が来てから毎晩布団に乗っかって首を絞めて来る!家中寒くて眠れないんだ」と連絡がありました。そして先生の妹さんの嫁ぎ先である寺で供養する事になりました。人形には亡くなったS先生の魂が入ってしまい、とても強い力を持っているのですぐには供養出来ない状態になっていました。その為1週間掛けて人形の魂抜きをしてからお焚き上げする事に。そしてお焚き上げ当日、本堂から護摩壇のある広場に人形を持って行こうとすると人形が入っているガラスケースが突然割れ破片が妹さんの腕に刺さり十数針を縫う大怪我を負ったそうです。そんな事がありましたがお焚き上げは何事も無く終了しその後は特に変わった事も起きずこの奇妙な一件は終わりました。
・補足として。S先生には夫と2人の息子がいましたがその夫がかなり変わった人で息子を医者にするべく特殊な教育を施していたそうです。勉強以外の事を固く禁じて他の子と遊ぶ事はもっての外、マンガを読む事やテレビを観る事さえも禁じており母親である先生の見舞いに行く事すら禁じていたそうです。(ちなみにこの夫S先生の死後、割と早い内に再婚し周囲からの顰蹙を買っていました)そして2人の息子は父親の願い通り医者になったそうですが頭が良く腕は立つが人としてとても冷たく人形のような人物だと聞き及んでいます。
以上が我が家で起きた出来事とちょっとした後日談です。
怖かった。人形は気持ちが入りやすいんですかね。
久しぶりに怖いお話でした。
やはり実話は最高です。