車中泊

最近流行りの車中泊。私もハマってます。小型ハッチバック車を少しだけ改造(カーテンや小さな棚をつけた程度)して、オートキャンプ場や予約制の道の駅で泊まってます。なんと言っても一番楽しいのは狭い空間で料理をすること。月に一度の車中泊では、少し贅沢なお肉を焼いたり、チーズフォンデュをしたり。何故か家では料理をしないのに、車中泊では頑張ってしまいます。そして食べたあとはマットを敷いてシェラフに入り、スマホで映画を観ながらゆっくり過ごします。

その日はどこも予約が取れず、ほんとうはダメなのですが、宿泊設備(24時間WCやシャワー)のない国道沿いの道の駅に泊まることにしました。そのかわり、絶対にアイドリングはしないように努めました。これが一番の迷惑行為で、深夜のエンジン音は本当に迷惑な行為なのです。
少し寒い夜でしたが、食事を早めに切り上げてシェラフに入り、好きな映画を観ていました。

少し車が揺れたような気がしました。最初は強風か地震かと思いましたが、風の音はしないし、ニュース速報は出ません。気のせいかと思って映画を観ていると、明らかな揺れを感じます。それも「バコっ」っと鉄板が凹む音も…。間違いなく、何かが車体に乗ってます。

即座にドアロックを確認して、明かりを消し、息を潜めました。心臓はバクバクです。シェラフに潜り込んで110番をしようか悩んでいたその時、「コンコン」と叩かれました。気のせいではありません。何度も何度も叩かれるのです。叩くというより、何かが規則的に動いて当たっているような感じです。カーテンで外の様子は分かりません。何度も何度もナニかが当たっています。
最初は警察官か道の駅の職員さんかと思いました。私はルール違反で駐車しているので注意されるのかなと思ったのです。ですが、それなら声をかけられるのが普通かなとも思いました。
「すみません。誰かいますか」などと問いかけるのが一般的かなと。でも、ひたすらコンコンと叩き続けるだけでした。
もう思考力が足りません。恐怖と嫌な想像が頭を巡らせます…
「襲われるのか…」
とてもこちらから行動を起こすことはできません。結局、ひたすらシェラフの中で震えていました。

耳を澄ますと、何か液体の「ネチャっ」という音も聞こえます。

怖いのと、色々と考えたくないことが入り混じり、いつの間にか眠っていました。

外は明るくなっていました。時間は9時です。道の駅ですから、店もオープンしているだろうと、思い切ってカーテンを開けました。

窓は全て真っ黄色でした。
そして駐車場内、私の車しかありません。
店は閉まったまま。どう見ても道の駅は営業していません。潰れている様相です。来たのが夜だったので気がつきませんでした。
もう、訳が分からずパニックになって、ひとまずここを去ろうと考え車を発車させました。

明らかにタイヤが何かを踏みました。
乗り上げた感覚がありました。それでもお構いなしに進みました。
駐車場を出ることができました。今となっては、敷地外に出た時、駐車場を振り返って見るべきだったと思うのですが、そんな余裕はありませんでした。とにかくその場を離れたい一心だったのです。

進めど進めど、なかなか民家もなく信号もありません。田舎道をひたすら走り続けました。しばらくすると、やっと広い道路に出ました。信号もあります。そして立派な道の駅がありました。私は道の駅を間違えていたようでした。その道の駅の駐車場に車を停め、スマホでマップを確認しました。
私が車中泊をしていただろう位置は、すたれたドライブインでした。そのクチコミには、肝試し的な内容ばかりが書き込まれています。

私は極端な現実主義者です。まず幽霊や心霊を全く信じていません。そういう意味では暗い夜道や、何なら夜中の学校だって入れます。
ただ、ヒトコワではあります。昨日の夜も、いわゆるヤンキーとかが絡んで来て、窓も割られてしまうのかと思って怖かったのです。

しかし、クチコミからすると、心霊現象だっのか…

道の駅で人も多くいましたので、安心して車外に出てみることにしました。ですが、ドアがなかなか開きません。黄色い液体が固まっているような感覚です。何とかこじ開けて外に出ましま。

車を見ました。

車は黄色くベトベトでした。見るからネチャネチャです。異様なニオイもします。ただ、嗅いだことのあるニオイです。

心霊現象だったのか…、しかし、この液体は……

何人か、人が近づいてきました。
「あんた、ドライブインに行ったな。それも長時間いただろ」
「こりゃひどい。最近あそこは誰も立ち寄らんから溜まってたんだろうな」