アジサイガ サイタヨ
投稿者:kana (210)
小雨の降るある日。ボクのウチの庭を眺めているお婆さんを見かけた。
あれは隣のウチのお婆さんだ。
一人暮らしをしているらしい。
そのお婆さんが、雨のなか立ち止まってウチの庭を覗いている。
きっと、アジサイの花を見ているのだろう。
ウチの広い庭に、垣根のようになって咲き誇るアジサイは、まさに今が旬の見ごろなのだ。
みんなボクが世話をして咲かせた。
水色、ピンク、白、コバルトブルーにエンジ色。小さいのから大きいのまで、
色とりどりである。だが、お婆さんがじっと見ているのは庭の一番奥にある、
血のように真っ赤なアジサイだろう。
「あのお婆さん、なにか勘づいたのかもしれないな」
幸い雨のせいで周囲に人はいない。ボクは周りをよく確かめてから、
お婆さんに声をかけた。
「こんにちは、おばあちゃん。アジサイ見たいの? だったらこちらへどうぞ。
お茶もありますよ」
ボクはできるだけ甘ったるい、弱々しい声でお婆さんに声をかけた。警戒させないためだ。
最初は少し遠慮していたお婆さんだったが、何度か誘うとやっと承諾して、こちらへ来てくれた。
「どうぞ、おあがりください。アジサイは裏庭から出て見た方がよく見えるんですよ」
「あのぅ、おうちの方はいらっしゃらないのかしら?」
「えぇ、父は今海外出張で戻りは半年後、母は・・・しばらく留守にしてまして・・・」
「あぁ、そうなの・・・お兄ちゃん一人で大変ねぇ」
「もう慣れました。それよりどうぞお座りください。アールグレイの最高品質のがあるんですよ。今淹れてきますね」
ボクは湯を沸かし、プレス式ティーメーカーに茶葉を投入して、二人分の紅茶を作る。
最高に良い香りが漂う。
「今日はこれにしよう」ウェッジウッドのアジサイ柄のカップ&ソーサーを出して、
そこに紅茶を注ぐ。
「うわぁ~ホントにおいしい。こんなおいしい紅茶はじめて」と喜ぶお婆さん。
しばしの歓談とゆるやかな時間が流れる。
「ほら、一番奥に咲いてる真っ赤なアジサイがあるでしょ?あれもアジサイなのよね?
わたし、あんな真っ赤なアジサイを見るのは初めてよ・・・」
kamaです。こちらの作品はちょうど1年前の6月によそで発表した「アジサイが咲いたよ」という作品の加筆修正版となります。前作が青年の独白でストーリーが進行し、最後にアジサイを見るお婆さんを殺害しようとするシーンで終わるモヤモヤした恐怖を残す作品だったのを、今回はプロットは変えずに、最初からお婆さん殺害をメインにしたサイコスリラー調に変えました。殺害方法はご存じの方もいるかと思いますが、某サイコ映画のオマージュです。
鼻字…(´∀`)
死体って樹木植物の栄養には適していると聞いたことがあります。
↑↑kamaです。誤字指摘ありがとうございます!!ぜんぜん気付きませんでした!
よくやっちゃうんです。自分で見つけたものはちょくちょく直しているのですが、
注意力散漫で見逃します! ですのでご指摘本当にありがたいです!!
またあったらこっそり教えてください!!
↑死体・・・そうなんですね。そういえば「土に還る」なんていいますから、案外自然なことなのかもしれないですね。
あじさいを見てただけなのに。お婆さん可哀想。
↑kamaです。コメントありがとうございます。理不尽ですよね。
最近もあったような・・・。理不尽な殺人が一番やるせないし、怖いです。
自然界は、人間が理不尽と思うことは普通にある。人間が勝手に作ったルールから外れると理不尽。だから、この話は至って普通。胸糞悪い、って言うのも似たようなものかな。
あまりに残酷過ぎないかと話題になっておりますこちらの作品ですが、本日、解決編として【アジサイ事件】-事件記者 朽屋瑠子ーを公開させていただきました。両方お読みいただくと楽しさ倍増と思います。ご覧ください。