段ボール
投稿者:神助 (16)
家の隣には60代のご夫婦と30代の息子さんが住んでいます。とても気さくな人たちで、よく世間話なんかをさせて貰っていました。
30代の息子さんは元々一人暮らしだったようですが東日本大震災をきっかけに実家に戻ってきたそうな。
そんな息子さんについて奥さんはちょっと困った事があるそうだ。
引っ越して数年経った今でも、引っ越しの時の段ボールがそのままの状態でいくつも部屋に積み重なっているのだとか。
ご主人はと言うと、「まあ、あの年齢の息子にいちいち言うのもなぁ……」的なスタンスであまり取り合ってはくれないそうだ。
奥さはその部屋いっぱいの段ボールの山が嫌でしょうがないと言った感じだった。
「あの子ったら、もういい年なんだからいい加減あの荷物を何とかして欲しいわ!」
なんて言葉を最近聞くようになっていた。
確かに何年も部屋ひとつを段ボールで占領されては良い気はしないだろう。ちょっとずつでも片づければいいのだろうけど……。
よくある話だなぁ、そんな何気ない愚痴をあまり気にも留めず聞き流した。
翌日ゴミ出しをしていると、丁度お隣の奥さんと会った。
「おはようございます!」そう声をかける。…と何やら奥さんの様子がいつもと違うのがすぐに分かった。
少し元気がないというか…寝不足っぽいというか、とにかく調子が良さそうには見えない。
「あら、おはよう…」精一杯の愛想で挨拶してくれる奥さん。
「どうしたんですか?なんだか顔色が悪いですよ?」
「それがね……」奥さんは青い顔で話始めた。
昨日の夜の出来事でした。みんなが寝静まった家の中、どこからともなく“音”が聞こえてくる事に気が付いた奥さん。
その音はカリカリカリ…と何かを爪でひっかく様な音だったそうだ。
気になった奥さんはその音がどこから出ているのか確認しようと布団から出た。
集中して耳を澄ます、するとどうやらその音は息子さんの段ボールの荷物が置いてある部屋からするようでした。
思い切って段ボール山積みの部屋に入る。
間違いなくその音は段ボールの一つから聞こえていた。
「カリカリカリッ…カリカリ…」不規則になる音。
こっちの段ボール?違う…これ?…これかしら。そして奥さんは確信した、音のする段ボールを!
思い切って段ボールに手を掛ける!
ところが…、テープも貼られていない、所謂互い違いに組んでいるだけのはずの段ボールは何故か開かないのだ!何度か開けようと頑張る奥さん。
「ダメだ、やっぱり開かない…」
そうこうしているうちにいつの間にか例の“音”は鳴りやんでいた。奥さんは一旦諦め、翌日に改めて調べてみる事にしたそうだ。
「もう、困っちゃうわ。虫かネズミでもいたらどうしよう。今週末こそ息子に片付けさせないと…!」そう言ってため息をついて家に戻って行った。
奥さんも色々大変だなぁ…。この時私はその程度にしか思っていなかった。
それから暫く、奥さんを見かけない日々が続いた。
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