先輩がハゲたワケ (加筆修正版)
投稿者:kana (210)
二日ばかり欠勤していた工場の先輩が、ハゲ頭になって出勤してきた。
驚いたと同時に、心の中でめちゃくちゃ笑った。
危うく声が出そうになった。
しかもその頭、キレイに剃ったのとは明らかに違う。
血が滲んだような跡も見えるし、ケガでもしたんだろうか。
オレは笑いを必死にこらえ、ちょっと心配そうな顔を作って先輩に声を掛けた。
「あざーーすっ! 先輩!ど、どうしたんスか?イメチェンすか?カッコイイっすね!」
明らかに不機嫌そうな顔でこっちを睨んで先輩が一言
「うっせぇんだよタコが・・・」
(ぷっ、今タコなのは先輩ですよ)と心の中で思う。
ここでいつもならさらにキレ気味につっかかってくる先輩が、さらに暗い顔になって
小さな声でこう漏らした
「・・・オレ、もうダメかもしれん・・・」
「先輩、何シンミリしちゃってんスか、オレにできることなら何でもしますから言ってください!」
「ここじゃダメだ。人気のないところで・・・」
と先輩とオレは工場から出て建物の裏手にまわってタバコをくゆらせた。
先輩が下っ端のオレにタバコをくれたのはこれが初めてだ。
一息おいて、先輩が語りだした。
「笑うなよ。まだ誰にも言ってねーんだが・・・ここんとこ、悪夢を見るんだよ。そう、夢だ。ほら、みんなで行った慰安旅行。あれから帰ってから毎晩のように悪夢を見るんだよ」
「あ、悪夢っスか・・・」
オレの相槌に応えるように先輩はつづける。
「ほら、慰安旅行の夜、小高い丘の上に古い神社があってお参りしただろ?あれっぽい神社が夢に出てきてな、そこが地獄のような雰囲気になってて、鬼みたいなやつがいるんだ。で、俺たちを捕まえて、一人一人殺していくんだ。最初にAを鉄のこん棒で叩き潰してぐしゃぐしゃにするんだよ。そして次にはBを捕まえて釜茹でにして殺すんだ・・・」
そこまで聞いてなんとなく話が分かった。
オレは言った。
「先輩、それは分かります。確かにショックでしたよ、オレも・・・A先輩は産業用シュレッダーに巻き込まれて死に、B先輩も破損したボイラーの蒸気を浴びて全身火傷で死んじまって、立て続けに死亡事故が発生したせいで工場もあちこちの部署がストップしてますからね。そりゃー誰だって悪夢のひとつやふたつ見ますって」
そこまで言って、先輩が首を横にしてこう言ってきた。
「違う、違う・・・そうじゃねぇんだ。次はオレなんだよ!夢の中で鬼が俺を捕まえようとするんだ。オレは全力で逃げるんだが、鬼の手がオレの髪の毛を掴んで引きずり倒すんだ。
そしてそのままズルズルとどこかに引っ張って行こうとすんだよ。このままじゃマズイと思って岩とかにつかまってなんとか抵抗するんだが、すごい力で鬼が引っ張るから、オレの髪の毛がブチブチと音を立てて引っこ抜かれて・・・でも、その隙に鬼から逃げることができたんだ」
オレはちょっと笑いそうになったのを我慢して返した。
「へ・・・へぇ~・・・でも良かったですね、助かって」
そのハゲた先輩は退職されたでしょうか?気になります。
逃がすわけ、ないやん。
捕まえたんですね
人の恨みは買わないようにしたいと思います。