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心霊

kanaさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

ひとり深夜に人の歯を焼く
短編 2023/02/14 20:17 3,661view
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詳しいことは言えないが、昔、小さな町工場のような所で働いたことがある。
世の中不景気でどこも働く場所などなくて、流れ流れて小さな工場に拾ってもらった。
そんな工場もやっぱり不景気のようで、給与支払いの遅延ももう二度目。
そして今月から社会保険を払うのをやめるから自分たちで国民健康保険や国民年金を払ってくれと言い出した。
いやそれ、会社として違法だろ。

そんな崖っぷちの工場を経営する社長と言うのが、これまたチンピラのような人でヤクザや右翼との交流もあると自慢気に話す人だった。
ボクはこの社長からサポートという名の元、ありとあらゆる業務をやらされていた。

ある晩。深夜0時を回ってひとり残業をしていた時の事である。

自分は歯医者が患者から引っこ抜いた大量の歯を前に、ガスバーナーに火を点火しているところだった。

1000度にもなる高温の火で人間の歯をいぶすと、髪の毛を焼いたような、いや、まさに人間を焼いたような独特の匂いがあたり一面に広がる。歯は白くスカスカになって燃えていく。中にはパキパキと破裂するものもある。これがまた香ばしい匂いを発する。

これはいったい何をしているのかというと、実はこれらの人間の歯には、以前治療した銀歯がまだくっついたままなのだ。火をかけると歯は燃えカスとなり、銀歯だけが残る。
取り出した銀歯は、融点の低い銀合金と融点の高いパラジウム合金に分けられる。
日本の法律で、歯科用のパラジウム合金は金(ゴールド)を12%以上含有させることになっている。つまりここから金が採れるのだ。もちろんパラジウム自体も貴金属だし。
銀はそんなに高くないけど、要はこれらの金属は回収して売れば、けっこうな額になるってわけだ。買い手はいくらでもいる。

深夜に一人でそんな作業をしている時に、ふと、目の隅に人が通ったような動きが見え、一瞬そちらを見た。誰もいないはずの暗い部屋の中を、一瞬、ほんの一瞬、足首から下だけが歩いて行ったように見えたのだ。よく目を凝らして見直してみたものの、それっきりで怪しいものはない。

「ふぅ、疲れてんのかな?」

気を取り直して、人の歯を焼く仕事に戻ろうとした時、外に車の着く音が聞こえ、ドアがおもむろに開いた。そこには社長の姿があった。泥だらけの長靴を履いて、いったいどこに行ってきたんだと言ういで立ちだ。

「あっ、お疲れ様です」と挨拶をする。

「おぉ、まだやってんのか。今日はいいからもう帰れ」と言いながら社長が入ってくる。

その後ろから数人の男たちも入ってきた。いかにも怪しい感じの男たちで、以前から社長がよく自慢していたヤクザ稼業な人たちなのではないかと思った。
彼らも社長について社長室の方へ向かおうとしている。

その後ろ姿を見てぞっとした。社長のその泥だらけの長ぐつを掴んで引きずられていく白い人間の手が見える。ヤクザ者の背中にも、掴んで離さない白い人間の手が見える。

そして、さっき見た足首が、社長室の前で彼らを出迎えていた。
誰もそれに気付いていないが・・・。

その翌日から、役員の数が一人減っていた。
こんな小さな会社に500万も支援してくれて、その代わりに役員にしてあげたという噂の立っていたナヨナヨした白い顔の気の弱そうな年寄りだった。
その彼が500万を払ったまま消えてしまった。

「昨晩見た足首と手・・・役員さんだったのかもなぁ、もしかして」
・・・あぁ、早く転職先探した方が良さそうだな、これは・・・と思った。

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コメント(3)
  • 既に倒産してるでしょう。

    2023/02/14/21:31
  • ヤバいよ。
    早く退職した方が良いよ。

    2023/02/15/00:45
  • 歯を焼くっていうタイトルの不気味さが秀逸

    2023/02/16/15:28

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