妻の声

夜中にふと目が覚めた。
隣からは妻の寝息が聞こえる。
部屋は暗く恐らくまだ夜中。
眠り直そうと仰向けから横向きに体勢を変える。

「まだ起きてるの？」

背を向けた私の左側から不機嫌そうな妻の声。
なんだ、妻も起きていたのか。

面倒だしすぐに眠りたいので黙って寝たふりをする。

「起きてるの？」
「ねぇ、起きてるの？」
「ねぇってば」

しつこく尋ねてくる妻に辟易するが眠たいので無視する。
が、私は気付いてしまった。
ベッドで寝る際はいつも右側が妻で左側が私だ。

現に私の目の前から微かな妻の寝息が聞こえる。
そして背を向けたベッドの左隣から、また妻の声。

「起きてるんでしょ？」

混乱しつつ夢の中へ逃げ込むようにぎゅっと目をつぶる。
冷や汗が背中を伝った。
また、妻の声が聞こえた。

「なんだ、寝てるの」

「いや、起きてるよ」

背を向けた方から、男の声がそう言った。