鳥居のある船
投稿者:ショーヘイ (10)
俺が大学生だった頃の話です。
大学1年の夏休み、サークルの仲間5人で旅行にいきました。行き先は九州です。メンバーの一人・Kが金持ちのボンボンだったもので、父親のクルーザーを貸し切って海へ出ようと誘われたのです。
豪華なクルーザー、しかも気になる女の子が一緒ときてテンションが上がりました。
当日は快晴で頭上には清々しい青空が広がり、何もかも上手く行きそうな予感が膨らみました。
早速波止場からクルーザーに乗り込んで沖にでます。まずは缶ビールで乾杯しました。
その後は音楽をかけて踊り狂い、ある者は舳先で釣り糸をたらし、ある者は恋人同士で乳繰り合い出します。正直羨ましいと思ったものの、ウブで奥手な俺は片想い中の子になかなか声をかけられず、もどかしい思いでビールの泡をなめていました。
どれ位たった頃でしょうか、一時間はたっていなかったと思います。操舵を担当していたKがおもむろに「あっ」と声を上げ、遥か彼方を指さしました。
「向こうから船がくるぞ」
「えっ?」
一同どよめいて甲板に殺到しました。Kの主張は嘘ではありませんでした、蜃気楼に霞む彼方にたゆたっているのは変な形の船でした。
「何あれ、変なのー。真ん中に鳥居が付いてる」
「ちょっと可愛くない?」
女性陣がきゃきゃっとはしゃぐ横で、俺はなんだか不吉な予感を感じていました。鳥居は神域との境界、あの世への門だと信心深い祖父に聞かされていたからです。
「なあ、行ってみようぜ」
「待てよ、危なくないか?」
「だって気になるじゃん」
一度決めたらKは強引でした。もとより彼の父親が所有するクルーザーに乗せてもらっている為、拒否権はありません。
Kには短気な所があったので、ご機嫌を損ねたら最悪海に蹴落とされます。
仕方なくKに賛成し、巨大な鳥居の装飾が付いた船に接近をはかりました。
(本当に変な形だ。出入口が見当たらないぞ、船員はどこにいるんだ)
見た感じ屋形船に近いですが、中に入る扉がもうけられてないのは不自然です。その異常さに遅まきながら気付いたのか、他のメンバーも怯え始めました。
「やっぱり帰ろ?おかしいって絶対」
「幽霊船だったらどうするの、呪われちゃうよ」
「うるせえな」
アロハシャツの袖を引っ張る女の子を振り払い、Kは挑戦的に断言しました。
「おもしれえじゃん、肝試ししようぜ」
思えばこの時力ずくでも止めておけばよかったのです。後悔しても後の祭りです。
屋形船にギリギリまで寄せてクルーザーを止めたKが、あっさりと縁を跨いで移っていきます。
「待てよ!」
「戻れって!」
補陀落渡海の話かと思ったら補陀落渡海の話だった
補陀落渡海って本当にあったんですよね
考えただけで怖い…