野辺送りを見てはいけない
投稿者:誠二 (20)
短編
2022/03/08
00:21
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私の父が子どもの頃に体験した話です。
父が生まれ育った田舎の村には野辺送りの風習がありました。野辺送りとは葬式の際、故人を入れた棺桶を親族一同が担いで墓地へと運ぶ儀式で、昔の日本では日常的に行われていたそうです。
父も登下校中に野辺送りを見かけるのには慣れていたので、大抵の場合は動じなかったのですが……。
ある時、近所に住むOさんが亡くなりました。Oさんは地元で一番の豪邸を構える高利貸しで、生前は随分あくどいまねをしていたそうです。大勢の人の恨みを買ったせいでしょうか、肝臓がんで苦しみ抜いた死に様は惨たらしいものでした。
下校中に偶然野辺送りに出くわした父は、じろじろ見るのも失礼だと思い、足早に通り過ぎようとしました。
棺とすれ違うまさにその瞬間、くぐもった呻き声が聞こえてきた気がしました。
「一人で落ちるのは嫌じゃ……道連れが欲しい……」
えっ、と思って振り返ると既に葬列は遠のいていました。
夜、布団にもぐった父は不思議な夢を見ました。場所は昼間と同じ田んぼの畦道で、向こうから葬列がやってくるのも一緒です。ただし今度はすれ違い際に棺桶の蓋が開き、死人が這い出してきました。
「地獄へ道連れじゃあぁ」
父は絶叫を上げて跳ね起きました。直後じゃりっと違和感を感じ、口の中の異物を掌に吐き出しました。
父の口には野辺送りの際に撒かれた米粒が詰め込まれていたのですが、それは真っ黒に腐っていました。
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