雪山を巡る影
投稿者:misa (11)
短編
2022/02/18
11:49
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私の父が雪山で体験した話です。
当時大学の登山サークルに所属していた父は、北陸で最も標高が高い山の単独登頂に挑みました。
当日の天気は快晴で絶好の登山日和、最初は意気揚々と歩いていたのですが……
午後になると急に空が曇りだし、あたり一面に濃い霧が漂い始めました。
これはまずいと思った時には既に道を見失い、立往生を余儀なくされてしまったそうです。
ピッケルを持ちリュックを抱えて呆然とする父の耳に、ザッザッと規則正しい足音が響いてきました。
釣られて視線を上げると、遥か前方の霧の中を同じ登山者らしい影が歩いていくではありませんか。
合流を目論んで「おーい」と叫んだ次の瞬間、妙なことに気付きました。登山者にもかかわらず、相手はリュックを背負ってないのです。
「荷物はどうしたんですか?」
礼儀正しく尋ねた所、霧に取り巻かれて相変わらず姿の見えない影が、スッと谷底を指さしました。
そこにはボロボロに劣化したリュックが転がっていました。
「拾ってください」
「え」
「渡してください」
困惑する父にむかって頭を下げ、影はスーッと消えて行きました。
影の消滅と同時に嘘みたいに天候が回復し、父は「谷底に不審なリュックがある」と最寄りの警察に連絡しました。
警察に回収されたリュックは数年前に遭難した登山者の遺品であり、きちんとご遺族のもとに届けられたそうです。
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