鎮められた物置小屋の秘密
投稿者:とろとろ (22)
私は子供の頃、田舎のおじいちゃんの家に時々泊まりに行っていました。
おじいちゃんの家には、物置小屋がありました。でも私は、そこに入ることも、近寄ることも許されませんでした。
「大事な物が入っているから、壊されたら困る」
という理由で。
私は子供心に、その物置小屋が気になって仕方がありませんでした。そこで、おじいちゃんが寄合に出かけたスキに、こっそり忍び込みました。
扉には南京錠がかかっていましたが、あらかじめ家の奥で見つけておいた鍵を使い、忍び込んだのです。
中は、がらんどうでした。物置小屋でありながら、物が何ひとつ置かれていなかったのです。
あるのは、奥の壁に貼られた一枚の紙。何か呪文のような文字が書いてある、人の形をした紙でした。
私は不吉な感じがして、小屋から出ようとして、扉の方を向きました。
その瞬間、腕に風が当たりました。
風というより、それは吐息。まるで動物の息遣いのような、「ハッハッ…」という、湿り気を帯びた生暖かい空気の波でした。
「うわぁー!」
私は仰天し、小屋を飛び出し、施錠もせずに母屋に帰りました。そして寄合から戻ってきたおじいちゃんに飛びつき、全てを打ち明けました。
するとおじいちゃんも、小屋の秘密を明かしてくれました。
その小屋は、昔、精神病の身内を閉じ込めるために建てたのだそうです。当時は精神病院などなく、監禁状態にするしかなかったのです。
その身内の方は、食事もろくに与えられず、排泄物も垂れ流しの小屋の中で、毎日ただただ扉に向かってうなっていたそうです。
死を迎える時まで、ずっと…。
ところが死後も、その小屋からはうなり声が聞こえてきました。
不気味に思った一族は、小屋を取り壊そうとしましたが、なぜか事故が続き、壊すことができず…。
やむなく、お札で鎮めていたそうです。
「あの人型の紙が、お札だったのね…」
私は合点がいきました。
そしてあの時の風…。あれは、うなり声をあげる時の吐息だったのかもしれません。苦しみと悲しみとがめいいっぱい詰まった、恨みの吐息…。
おじいちゃんはもう亡くなりましたが、あの小屋は、今でもまだ残っています。
そしてその周囲では、きっと夜な夜なうなり声が響いていることと思います。生暖かい、恨みの吐息と共に…。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。