稲荷系の神社にて

5年前、ある神社に来ていた私は、必死だった。
私は趣味でダンスをやっており、数か月後に大きな公演を控えていた。

その時所属していたダンススタジオは、いわゆる普通のショーケースと違い、マイム（芝居）も含めた公演をするところだった。
そこで私は予想外の大きな役をもらった。
主人公ではないが、わりと目立つ役まわりで、しかも踊りながら手品を披露するという難易度の高い事をやるハメになった。
すごくプレッシャーだったが、NOと言えない性格と、出来ないと言えないプライドの高さから断る事ができなかった。

練習では失敗ばかりだった。
やはり手品の部分がうまくいかない。
まだ練習は始まったばかりだから、と自分を慰めてみても
本番を考えると、夜中に何度かうなされていた。

もう、やばい
神頼みしかない。
そう思って、パワースポットと呼ばれる某有名神社に来たのだった。
さすが、芸能人もこっそり参拝に来るだけあって、鳥居をくぐった時からわかる神々しい雰囲気。
境内にいる猫ですら神の遣いのように見えてくる。

この神社は稲荷系だったため、キツネの置物がずらりと並んでいるところがあった。
ここで、手を合わせて舞台の成功をお祈りしてみよう。
そう思って近づいてみたが、
こけしサイズのキツネの置物が台の上に林立と並ぶ姿は、神々しすぎて、少し怖いと思ってしまった。

一定距離、進めないでいると、声が聞こえてきた。

「怖がらなくてよい」
と。
あたりを見渡すと、誰もいない。

不思議と怖さがなくなり、一歩近づいて手を合わせて、お祈りをした。
あの声は、一体。
聞こえる、というより、頭に直接語りかけられている、そんな不思議な感覚。
神社の参拝を終えてから、不思議と心の中が穏やかになった。
誰にも怒らず、焦らず、まるで悟りを開いたような平穏な精神状態が続いた。
そして、プレッシャーだった本番を迎え、心配だった手品のパートも無事成功し、公演は高評価で幕を閉じた。
私はあの時のあの神社に参拝して良かったと思っている。