もうひとり誰かが居る家
投稿者:渋柿 (1)
私がかつて住んでいた家の話です。
幼稚園~高校生の頃まで、私は家族と一緒に団地に暮らしていました。
地方郊外のどこにでもあるような至って普通のつくりの建物でした。
自分たち家族が住み始めた当時は築年数もそんなに経っておらず、昔ながらの集合住宅というよりは「若い家族が家を建てる資金を貯めるために、一時的に住む」そんな雰囲気の団地でした。
団地ならではのやや治安の悪い人たちも一部には居ましたし、詳細は伏せますがおなじ団地内の他の棟で全国ニュースで報道されるようなひどい事件も起こったりしました。
でも私が恐れていたのはそんな実体のある人物や事件じゃなく、自分たち家族が住んでいる一室で起こる、不可解な現象でした。
当時そこはどこの棟もほぼ満室状態で埋まっており、入居には抽選が必須な人気の物件でした。
家賃が安いのもありますが、私鉄の特急停車駅が徒歩10分程と好立地だったのです。
敷地内には公園もあり、小さい頃は友達ともよく遊んでいました。
私の両親は父方の祖父母と同居していたのですが、折り合いが悪かったようでした。そこで子育て世代向けでもあるこの団地へ引っ越ししたのだと、後になって知りました。
20棟程が立ち並ぶ、地方ではそこそこの規模の団地。
その中のある棟の3階に私たち家族の住む部屋がありました。
家族構成は、父・母・私・妹1・妹2の4人。
3DKの平凡なつくりの家で、私と妹たちとで1室、両親が1室、DKは食卓として使って、もう1室は居間として使っていました。
玄関から廊下へ入ってすぐ右が両親の部屋、つきあたりに物置(ドア型の押入れ収納)があり、物置の左に子供部屋、両親の部屋と物置の中間地点に廊下と繋がった形でDK(食卓)と隣の居間へ入っていけるようになっていました。
簡単に言えばT字型の間取りです。
DKからは廊下が丸見えで見栄えが悪く冷暖房効率も悪いとのことで、DKと廊下の境目には暖簾を設置して間仕切りをしていました。
DKのテーブルからはその間仕切りの暖簾が見えており、夕飯時に父が帰ってくると「ただいま~」なんて言いつつ暖簾をくぐって一緒に食卓へついていました。
我が家の夕食は家族そろってがお決まりで、父の帰りが遅い時以外はみんな揃って食事をしていました。
何の変哲もない家族との夕食。テレビを見ながら他愛のない話をしたり、ありふれた日常風景。
でも時折、不思議な現象を目の当たりにしていました。
皆で食事をしている時、フッと風が吹いたように暖簾が揺れるのです。
席を立っている人は誰もおらず、窓を閉め切っている時でも起こるこの現象。
たまたま何かの拍子で揺れたのだろう、とあまり気にしていませんでした。
ある事に気が付くまでは。
その”ある事”に気が付いたのは小学校高学年~中学生の時だったかと思います。
相変わらず何もないのに暖簾が揺れる、この現象は続いていました。
夕飯時だったと思うのですが、また暖簾がフッと揺れました。
それが目に入り「揺れたな」と感覚的に思ったのですが、問題なのはその揺れ方。
風が通ったり人が入ってくる時、暖簾はバサッと前後に揺れるのが普通だと思います。
しかし食卓から見えるその暖簾の揺れは右から左、あるいは左から右へ流れるように揺れるのです。
霊道ってやつですね