もうひとり誰かが居る家
投稿者:渋柿 (1)
まるで暖簾の向こうの廊下を誰かが通ったかのように。
それ以降も誰かが通っているかのような揺れを見かけることはありました。
そして何か人型のモノが通過するのが、暖簾越しに感じられる時がありました。
私以外の家族もその人型の何かに気が付いているようでした。
妹たちも「誰か通った」と度々口に出すようになり、母も「また~?」なんて応えるほど家族内では当たり前の現象になっていました。
でも私はどうしても慣れることはありませんでした。
なぜか暖簾が揺れソレが通るとき、目が引き寄せられるような、見たくないけど注目してしまうような嫌な気配があったのです。
この嫌な感覚を一番強く感じた出来事がありました。
中学2年~3年の頃、当時寝坊グセがあった私はいつも家を出るのがギリギリでした。そのうえ忘れ物常習犯で母に「忘れ物ない~?」とよく言われていた覚えがあります。
ある朝も慌てて通学カバンを持ち、子供部屋から廊下を通って玄関へ。
急いで靴紐を結んでいると後ろで気配を感じました。
「忘れ物してて母が持ってきてくれたんだ」そう思って振り返りました。
するとそこに何かが立っていました。
“何か”と表現してるのは、それが母でもなければ人でもない、実体として存在するモノではなかったからです。
言葉で表現するのは難しいですが、黒いモヤのような影のような、人くらいの高さの黒い空気の塊がそこに居ました。
突然のことで頭の中は真っ白。「何コレ???」という疑問でいっぱいでしたが、見えてはいけないモノがそこに居ると直感。
そのまま顔を玄関のほうへ向けて扉を開け、外へ出ました。
その後は「あれは何だったんだろう…」と悶々としつつ、いつものように登校しました。
登校中に私はある結論に至ります。
「あれは暖簾の向こうを通っている”誰か”に違いない」。
根拠は2つ。まず、私が遭遇したのが暖簾の向こうの廊下であること。そして何より、あの気配が暖簾が揺れる時に感じるものと同じ雰囲気を纏っていたことです。
その日以降、直接ソレと対峙することは無かったですが、相変わらず暖簾の揺れと横切る気配は続いていました。
今になってですが、あの存在は廊下のつきあたりにある物置と玄関とを通り道にしてたように思います。
玄関~廊下~物置を右から左、左から右と通り抜ける誰か。
出かけては戻る、そしてまた出かける。まるで人間のように生活していると思えてなりませんでした。
家族以外の見えない誰かが一緒に生活していた団地。
私は大学進学を機に実家を出て、両親や妹たちも戸建に引っ越したため、今の状況は分かりません。
もし同じ部屋に誰かが越してきていたら、その人たちと一緒に住んでいるのでしょうか。
それとも私たち家族そのものに付いてきている何かだとすれば…。と今もふと不安になります。
霊道ってやつですね