私が住むこの町は、ほとんどの家で猫を飼っている。
おまけに野良猫も多く、ちょっとした「猫の町」として知られている。
ここではいくつか決まりごとがある。
1 飼い猫には首輪と鈴を付ける
2 猫に人のような名前を付けてはいけない
という物だ。
1については、飼い猫と野良猫を区別するためだ。
2については、その理由には諸説あるが、先祖代々そうしているという。
かつて人のような名前を付けられた猫がなぜか早死にしたり、事件や事故に巻き込まれる事が多かったらしい。
だから、今では「タマ」とか「ミケ」とか、典型的な名前しか付いていない。
ただ、最近はその決まり事を知らない、あるいは気にしない若い家族が増えてきた。
そのせいで人のような名前が付いた猫も何匹かいる。
ある日、この町に一人の男が引っ越してきた。
男は近所づきあいは普通で、行きつけの店や顔なじみも出来た。
この町に来たのはただの偶然で、通勤するにはちょうどいいから、というただそれだけの理由だった。
ただ、男にはちょっとした噂があって、お化けや幽霊が見えるとか、そんな話だ。
私も、男が誰もいないはずの所をじっと見つめていたり、猫に威嚇されたり、ちょっと不思議な所を見たことがある。
町の住民たちは、猫の顔や体の模様、首輪の色などで、その猫がどこの家の猫なのかすぐにわかる。
しかし、男は猫があまり好きではないらしくて、猫がどこの家で飼われているかとか、名前が何なのかとか、一切知ろうとはしなかった。
おまけに、野良猫を足で蹴ったりしているところを見た人もいた。
当たり前の事だが、猫に危害を与えるのは、この町では大きなタブーとされている。
だから、住民たちは男をある意味注目していた。
そんなある日、事件が起こった。
3日連続で3匹の飼い猫が殺されたのだ。
ところが、すぐに犯人が捕まった。あの男だった。
男の供述では
「猫が俺を睨んで殺されそうだった」
「猫が人の形に代わって俺を襲ってきた」
「猫を殺せと声が聞こえた」
すごく良くてできてる話
面白かったです