夜に引きずられる女
投稿者:Kellogg (5)
梅雨が終わる頃、いつものように夜中に仕事が終わって、なんとか終電に乗り込んで最寄りの駅に着いた。
駅の周りはコンビニと銀行、パチンコ屋くらいしかない田舎の駅。
いつもなら疲れてタクシー拾うけど、その日は風が涼しくて、川沿いの道を20分くらい歩いて帰ることにした。
静かな道をしばらく歩いていると、川にかかる鉄道橋の下から男の声がしてきた。
俺が歩いているところは川の防波堤の上の道で、声がした方角は一段下の道の方だった。
薄暗い街灯がついていて、覗き込むとどうやら2人いるようだった。
男は立っていて、「くそっ」とか「ふざけんな」とかいらだった声をあげていた。
その足元にもう1人、うつぶせに寝転んでいるような状態で、苦しそうにしている姿が見えた。
暗くてよく見えないが、スカートとハイヒールのようなものを履いてるから、多分女性だろう。
「うっ、うっ、」というような震える声も聞こえる。
うわー、痴話喧嘩かよ、かかわりたくないな…と内心思いつつ、チラチラ見ながら通り過ぎようとしたんだけど、どうやら男の方が女の頭を掴んで引きずって歩こうとしてる。
ずるずる、ずるずるとコンクリートの道をゆっくり進んでいく。
男はずっと文句言ってるし、女はうめき声あげてるし、さすがにヤバいと思って「警察呼びますよ!」って怖いけど遠くから叫んだんだ。
そしたら男がバッてこっち見て、顔面蒼白で
「助けてくれ!」って叫んだ。
え?どういうこと?お前が女引きずって泣かせてたじゃん?と思ってよく見たら、男が引きずってんじゃなくて、女が男の足にしがみついてんの。それも手が食い込むほどぎっちりと。
男はその手を払おうと、女の頭を掴んでたんだっていうのを理解した時、ゆっくり女が顔を上げてこっち見たの。
「うっ、うっ、うふふふふふふ」って、さっきまで泣いてるのかと思ってた声は笑い声で、男が女を引きずりながら俺の方に近づいてきたから、俺は瞬時にヤバい、やられると思って、足が絡まりそうになりながら何とか逆方向へ走った。
後ろから男の叫び声が聞こえたけど振り返る余裕もなく、必死で家に帰ってすぐに鍵をかけた。
その後家には何も来なかったし、翌日以降も男の身に何かあったようなニュースは流れなかった。
ただオレはもうあの川沿いの道は2度と行かないだろう。
もう一度行ったら、次は俺の番だと思うから。
川には防波堤ではなく、土手ですね。
やっぱり、人が一番怖い
土手か〜 怖いなあ