海で出会った怖い白いポンチョの人
投稿者:希子 (19)
私の地元地域では、小学生の遠足と言うと歩いて1時間弱の磯や浜辺へ行くのが定番だったのですが、初めて行く際、近所に住んでいたおばがこっそり忠告をしてきました。
「日中いくのだから問題はないだろうけど。でもね、決して磯で一人になってはだめよ。暑いだろうけど長袖長ズボンをはいて、遊ぶ時はかならず先生の目のあるところ、お友達何人かでいるのよ。」と言うのです。
折しも子どもの誘拐事件が相次いでいた世相だったので、遠方から嫁いで土地勘のなかった母は、「そうそう、そして知らない人には絶対ついて行かないで」と付け足しました。おばはちょっと首を傾げていました。
遠足当日はどんより曇った日で、海は静かでしたがぱっとした明るさはありませんでした。それでも私たち子どもは砂浜を駆けずり回って遊んだのです。
そうしてふと気が付くと、私は一人で磯の部分に来ていました。目を落とすと、落ち窪んだ岩々の中に様々な生き物がいて、私は心を奪われました。裸足になってズボンのすそをまくり上げ、海水のたまった岩のくぼみに入りました。うめぼしのようなイソギンチャクを見つけて触ろうとした時、足裏がすべってよろめき、ごつごつした岩肌で膝からすねの部分を派手にこすってしまったのです。
ぶわっ、と出た鮮血に自分でもびっくりし慌てて砂浜の方へ戻りかけました。その時、真っ白いレインコートかポンチョのようなものを身にまとった人とすれ違いました。
私は「やばい、やばい、先生にばんそうこうもらわなきゃ」と焦りつつ、皆がいる方に向かって走りました。そして何気なく自分のいた磯を振り返ると、あの白いポンチョの人がうずくまっているのが見えたのです。ポンチョに隠れていましたが、顔があるだろう部分から長いひものようなものが伸びて、それが磯の岩にくっついていました。私がケガをして流した血がいくぶんか溜まっていた部分です。
心臓が止まりそうなほど「怖い」という感情が全身を駆け抜け、猛ダッシュで先生のところへ戻りました。出血量が多かったので先生はびっくりして手当してくれましたが、私は例のポンチョの人の事は言えませんでした。言ったら何かもっと怖い事があるような予感がしたからです。
低学年の頃の話なので、結局人を見たのか何か別のものを見たのか、今となって判別はできません。ただ、強烈な不吉な予感に縛られて、ほとんど人に言えずにいました。この事を忠告してくれたのかもしれないおばにも話す機会がないまま、私は大人になりおばは亡くなってしまいました。
今となっては朧気な記憶ですが、あのポンチョの人は私の血を吸っていたのだと思います。
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