工場には出ない
投稿者:GENGO (32)
それでも翌朝、Aは通常の時間に工場の仕事場に行った。
本当は昨日のことを誰かれなく叫び、問いただしまくり、
事態の納得いく説明を求めたかったのだが、
自分が見たものを説明のしようがない。
また、見たということは事務室の戸を開けたことを説明を
せざるをえず、結局、なにも出来なかった。
廻りの人達の中にはなんとなくAの異変に気が付いていた
人もいたようだだったが、
何かしら気をつかってくれたようで、とにもかくにもAは
帰路に就くことになった。
陽がのぼっていても工場の外に出るのはためらわれたが、
思い切って足を踏み出すと、外は普通の平和な田舎だった。
最寄りの駅までまたK専務に車で送ってもらった。
車内では当たり障りのない会話しかAは出来ず
けして会話は弾まなかった。
だがやがてK専務が唐突に言った。
「俺はちゃんと言っただろ。工場には出ないって。」
返答のしようがないAに、K専務は更に言った。
「工場の外はともかく、工場の中にいれば大丈夫なんだよ。」
軽く笑い飛ばすように、そう言った。
確かにアレは工場の中には出なかった。
工場の外、防風林に出ただけだ。
後にAが色々と調べてみてわかったそうなのだが・・
古くから港町などにある防風林は、あまり人が訪れず、
首を吊るのに手ごろな松の木の枝が豊富、ということで
首吊り自殺が発生することが多い場所でもあるらしかった。
だが時々、あえてそういう元・墓場とか昔は処刑場だったという場所を
あえて買ったり借りたりする人達も一定数存在するらしい。
ワケアリということで格安になる場合があるので。
曰く因縁などを全く信じないとか除霊や慰霊をすれば大丈夫、と
あえてそこに関わり使用する人達も一定数はいるのだ。
これはAの推測だがK専務はそういう人で、
あの工業団地が元・防風林であることを
最初から知っていたのではないか、
K専務のあの対応を考えると、そんな気がしてならない、とAは私に言った。
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