カズヒトくんが消えた世界

僕には幼稚園のころ、カズヒトくんという友達がいました。
他の友達と一緒に幼稚園の遊具などでよく遊んだ記憶があります。

運動神経がよくていつも遊びの中心的存在だったカズヒトくん、ある日ジャングルジムから落ちて怪我をし救急車で運ばれていきました。友達が死ぬんじゃないかと心配で心配で泣きながら救急車を見送った記憶があります。

それからしばらくカズヒトくんは幼稚園に来ませんでした。
子供心に（骨でも折れて入院したのかな…）と思っていましたが、数週間経っても来ないので不思議に思った僕は、先生に「カズヒトくんはいつ帰ってくるの？」と訪ねました。

「カズヒトくんって誰？」

先生はそう言いました。他の友達もカズヒトくんのことなど知らないと言います。毎日のように一緒に遊んでいたのに。

帰ってから親に聞いてもカズヒトくんなんて子は知らないと言います。

僕は幼心に（カズヒトくんは死んだんだ、そしてみんなそれを隠している…）そう思っていました。
でもよくよく考えてみると、もし死んでしまっていたならお通夜やお葬式があるでしょうし、みんなが僕だけに知らないというのは不自然な気がします。
結局、それからカズヒトくんが僕の前に現れることはありませんでした。

大人になった今、カズヒトくんは僕のイマジナリーフレンドだったのかなと思います。そうでなければ説明がつかないので。

でもあの時見送った救急車までが僕の妄想だったのでしょうか。
まるでカズヒトくんだけが消された世界に来てしまったような気がします。

そしてカズヒトくんが誰もいない世界に迷い込んでいるのではないか心配です。