明るい部屋
投稿者:黄な子 (7)
学生時代借りていたアパートの2階には変わった住民が住んでいた。会ったことがあるわけでは無く、住民の人となりは知らなかったが、アパートに面した駐車場から見える彼の部屋は一際目立っていた。
カーテンも引いていない。
部屋の中が丸見えの彼の部屋は、明るいのだ。
眩しいといってもいい。日中問わず、彼の部屋には異常な光量の照明が煌々と輝いていた。その明るさは、車で帰宅する際の帰り道からも見えるくらいだった。駐車場にいると、その部屋の光源のために影ができる程明るい。
一階の外からは彼の様子は確認できず、在宅かどうかも分からないが、その余りの明るさが何故か不気味でいつも視界に入れないようにしていた。
ある日、いつものように車で帰宅した。いつものように彼の部屋は明かりがついていたので、できるだけ見ないように下を向いて部屋に向かおうとする。
ふと、足元を見て違和感がした。大きい、黒い影。
私のいる駐車場に大きな影ができている。
彼の部屋に視線をやると、窓のそばに彼はいた。
ベランダに背を向けて立っている。影は、部屋の光を受けた彼のものだった。
ゆらゆらと影が揺れる。首が左右にゆっくり動く。
ゆっくり、左右に。
名状し難い恐怖で固まっている私をよそに、影は次第に消えていった。多分、部屋の奥に行ったのだと思う。
正気を取り戻した私は一目散に部屋へ戻った。
一息ついて、彼のことを思い出す。
首を左右に振る彼の姿。何をしていたのだろうか。
考えつつ、ふと何故か、あの明るい部屋の意味が分かった気がした。
多分探しているのだろう。明るい部屋の中で、なにかを。あの部屋の明かりが消えるまでは、ずっと。
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