ずぶ濡れ
投稿者:やんやん (3)
これは僕の子供の頃の記憶です。
「その日は朝から雨が降っていました。僕はお母さんと二人で新幹線に乗ってお母さんの故郷の広島県に向かっていました。
大粒の雨がバタバタバタと新幹線の窓にぶつかって来るのを僕はぼーっと見てました。
広島駅に着くと、より雨が激しくなっているような気がしました。バスを乗り継いでなんとかお母さんの実家に行きました。
実家ではお祖父ちゃん、お祖母ちゃんはもちろん、親戚の人たちもたくさん来ていて僕たちをもてなしてくれました。
僕は親戚のお姉ちゃんと二人で遊んでいると、お姉ちゃんがアイスを買いに行こうと誘ってくれて、雨の中、傘をもって二人で玄関を出ると、ドアの目の前にずぶ濡れでうつ向いて立っている女がいました。
それを見たお姉ちゃんが「目合わせたらいけんよ」と言って僕の腕を引っ張って歩き出しました。
近くのコンビニでアイスを買って家に戻るとまだ、女がずぶ濡れで立っていました。
それを見たお姉ちゃんにまた腕を引っ張られながら、女の横を通りすぎる時に女が「ろろろろろ、、」と意味不明な言葉を僕に言ってきました。
僕は無視して家の中に入りました。
二階のお姉ちゃんの部屋でアイスを食べたり、本を読んでもらったりしてる時にふと、あの女はまだいるのかな?と思い窓から下を見ると、あの女がこっちを見上げていて、目が合ってしまいました。
すると無性に傘を貸してあげたくなり、お姉ちゃんにトイレに行くと嘘をついて一階におりて、傘を手に取り玄関を開けて外に出て、女に傘を渡そうとした瞬間、「なにしよるんじゃ!」と物凄い大きな声でお祖父ちゃんが玄関から言ってきて、後ろから抱きかかえられて家の中に連れ戻されました。
お祖父ちゃんは必死な顔をしながら僕に「あの女は人間じゃ無いんで、人間の姿をした気色悪い人さらいじゃ、雨の日になったら人の家の玄関の前に立っとるんよ、それを不憫に思った子供が傘を渡したら、そのままどっかに連れ去られるんよ、後日傘だけが帰ってきた言う話がこの辺では昔から言い伝えられとる。じゃけぇ、この辺では誰も人に傘を渡したりせんのじゃ、、お前もあぶなかったのう、、」
と言われて僕は涙が出てきました。
良いことをしようとしたのに、怒られる事もあるんだと思いました。
そのあとお祖父ちゃんはお姉ちゃんに「なんでお前がしっかり見とかんのじゃ!」と怒って言ってお姉ちゃんは泣きながら僕に謝ってきました。
僕はお姉ちゃんにも悪いことをしたなと思いました。
これが僕の夏休みの思い出です。」
そうクラスメイトの山本君が夏休みの感想文を参観日で発表すると、後ろから誰かの悲鳴があがり、振り向くと父兄の中に知らない女が居て、その女はずぶ濡れで、目は笑ってないのに、口角だけがあがっていて、そのまますーっと父兄たちの前を通りすぎて教室から出て行きました。
当然、僕たち子供はもちろん、先生や父兄までもがパニックになり、その日の参観日はそこで終わりました。
あの女は山本君に着いてきたのか、それとも全く関係の無い女がたまたま教室に紛れ込んでいたのか、今となっては定かではありません。
ただ僕の記憶が正しければ、その日も雨が降っていたような気がします。
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