今にもまた背後から、
「かめ」
と聞こえてくるような気がしたんです。
僕はいとこの手を取り、リビングへ向かいました。
走ることはしませんでした。
その時は音を立てるのが怖かったんです。
さっきの何かが、音を聞きつけて追ってくる。
そんな気がして。
だから、いとこの手を握ったまま、なるべく足音を立てず、ゆっくりと廊下を歩きました。
まるで今度は自分が「亀」になったような気分でした。
リビングに着き、家族の姿が見えたとき、ようやく息を吐くことができました。
いとこは僕の手を振りほどくように離すと、すぐに家族のところへ駆け寄りました。
そのときも、一度だけこちらを振り返りました。
やっぱり、怯えたような目をしていました。
僕はあの女の声のことを誰にも話しませんでした。
話したところで信じてもらえないと思ったのもあります。
それ以上に、実家でそんなことが起きたとは思いたくなかったのだと思います。
聞き間違い。
いとこの声が違って聞こえただけ。
そう思うことにしました。
それから七年ほど経ちました。
最近、成長したいとこと久しぶりに会う機会がありました。
昔の話をしているうちに、僕はふとあの日のことを思い出しました。
今なら笑い話になっているかもしれない。
そう思って、
「そういえばさ、昔、鬼亀やったの覚えてる?」
と聞きました。
いとこは少し黙ったあと、
「あぁ……うん。覚えてる」
と答えました。
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