いつしかAさんは気味が悪く、その椅子を見るのが嫌になっていたそうです。
ある夜。
深夜の巡回で病室に入ると、佐々木さんは眠っています。
その夜も、ベッドの横には椅子が置かれていました。
いつもと変わらない様子だったので、Aさんが部屋を出ようとしたときでした。
「ギィ……」
椅子の脚が、床を擦るような音を立てて、ほんの少し動いたそうです。
まるで、誰かがそこに座ったように。
Aさんは背筋が凍ったそうです。
怖くなったAさんは、急いで佐々木さんを起こしました。
「佐々木さん、佐々木さん!」
肩を揺すると、佐々木さんが目を覚ましました。
そして椅子を見るなり、
「ああ……」
と呟きました。
「来たんですね」
Aさんには、何のことか分かりませんでした。
佐々木さんは椅子を見つめたまま、
「……なんで起こしたんですか」
と、少し怒ったように言いました。
「え?」
「もう来てたでしょう」
その言葉に、Aさんは何も答えられませんでした。
佐々木さんはしばらく椅子を見つめてから、
「今夜は、僕の番だったんですよ」
と静かに言いました。
「番、って……」
佐々木さんは答えませんでした。
ただ、
「もう少しだったのに」
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