ある男性がいた。
仮にAさんとする。
Aさんは早くに妻を亡くし、一人娘だけを支えに生きていた。
だが、その娘も事故で亡くなってしまう。
小学校を卒業し、中学生になることを楽しみにしていた矢先だった。
Aさんは深く落ち込んだ。
仕事に復帰しても以前のような笑顔は戻らない。
そんな中、彼は思うようになる。
もう一度だけ。
娘に会いたい。
占い師にも頼った。
霊能者にも頼った。
だが、誰も娘を連れてきてはくれなかった。
そして偶然見つけたのが、『裏かくれんぼ』だった。
半信半疑のまま儀式を行う。
一回。
二回。
三回。
何も起こらない。
四回。
それでも駄目だった。
そして諦めかけた五回目の夜。
娘が現れた。
涙を流しながら言葉を交わした。
もう会えないと思っていた娘が目の前にいる。
その喜びは想像もできないほど大きかった。
翌日、Aさんは会社でその話をした。
しかし誰も信じない。
幻覚だろう。
精神的に参っているだけだろう。
周囲はそう考えた。
ただ一人、親身になってくれる友人だけがいた。
その友人は言った。
「本当かどうかは分からない。でも、死者を呼ぶなんて危険じゃないのか?」
「娘さんだって安らかに眠れないだろう」
「もうやめた方がいい」
その言葉を聞き、Aさんは頷いた。
もうやらない。
そう約束した。
それからしばらくして、Aさんは元気を取り戻していく。
会社の人間も安心した。
だが、ある時から再び様子がおかしくなった。
落ち込んでいるわけではない。
何かを考え込んでいる。
そして独り言を繰り返している。
友人が近付いた時、その言葉が聞こえた。
「もう骨がない……」
「どうしよう……」
「もう骨がない……」
嫌な予感がした。
問い詰めると、Aさんは儀式をやめていなかった。
娘と会う時間を増やしたかった。
もっと長く話したかった。
その気持ちが止まらなくなっていた。
最初は遺髪を使った。
それがなくなると骨壺の遺骨を使った。
そして今、その遺骨もほとんど残っていないという。
友人は怒った。
「いい加減にしろ!」
「娘さんの骨まで使うのか!」
「残っているなら今すぐ墓に戻してやれ!」
Aさんは俯きながら、
「分かった……」
と答えた。
だが、その一週間後。
Aさんは会社に来なかった。
翌日も来なかった。
不安になった友人と上司は家を訪ねた。
玄関は開いていた。
呼びかけても返事はない。
そして押し入れの中でAさんは見つかった。
死んでいた。
だが、その顔は異様だった。
まるで何かとてつもないものを見たかのように。
恐怖で引きつった顔をしていた。
警察を待つ間、友人は仏間へ向かった。
そこには骨壺があった。
中を見た。
何も入っていなかった。
本当に何も。
灰すら残っていなかった。
友人は思った。
最後の遺骨を使い。
娘に会うために押し入れを開けたのだと。
そして連れて行かれたのだと。
その後。
友人は行きつけのバーで、この話をマスターに聞かせた。
するとマスターは首を傾げた。
「でも、おかしくないですか?」
「もし本当に娘さんに会えたなら、そんな顔で死にますかね」
友人は言葉を失った。
マスターは静かに続けた。
「一度使ったぬいぐるみを処分しなかったんじゃないですか」
「だから娘さんじゃない何かが来た」
「そして、その何かに連れて行かれた」
それを聞いた友人は何も言えなくなった――。
そこまで話し終えた時。
怪談会の空気は完全に出来上がっていた。
全員が黙り込んでいた。
誰も話の続きを催促しない。
それほど聞き入っていた。
そして少し間を置いてから、清水さんは笑った。
「……という創作でした」
一瞬静まり返ったあと、
「何だよ!」
「騙された!」
「普通に怖かった!」
そんな声が飛び交った。
だが反応は上々だった。
設定の話になり、もっとこうした方がいい、こういう展開も面白いと盛り上がった。
去年の失敗は完全に取り返した。
清水さんはようやく胸を撫で下ろしたという。
そして翌年。
大学最後の夏は、全員の予定が合わずキャンプは中止になった。
やがて四人は卒業し、それぞれ社会人になった。
それでも付き合いは続いた。
定期的に飲みに行き、昔話をした。
あの怪談会の話も時々話題になったという。
そして社会人になって二年。
三年目に入ろうとしていたある土曜日の朝。
仕事へ行く準備をしていた清水さんの携帯が鳴った。
画面には山下さんの名前が表示されていた。
珍しいな。
そう思いながら電話に出る。
「どうした?」
すると山下さんは少し沈んだ声で言った。
「今日、時間あるか?」
「ちょっと会って話したいことがあるんだ」
と続けた。
その声は、どこか妙に重たかったという。

























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。