女の人の声が、今までで一番はっきり聞こえたんです。
『……みぎ』
『……あと、いっぽ』
『……がけ』
『…………ちがう』
その一言だけが、妙にはっきり耳に残りました。
違う?
何が違うんだ?
翌日の土曜日、僕はその展望台へ向かいました。
事故なんて滅多に起きる場所じゃない。
きっと何か勘違いしているだけだ。
そう自分に言い聞かせながら。
展望台には誰もいませんでした。
昼間なのに、不思議なくらい静かでした。
プロフィール画像と同じ場所まで歩き、柵の前に立ちました。
そこから景色を見ようと一歩踏み出しかけた、その瞬間。
頭の中で、あの声が蘇りました。
『……みぎ』
反射的に右へ体をずらした、その直後。
僕が立っていた場所の足元が、ガラッと音を立てて崩れました。
小さな石と土が、崖の下へ吸い込まれていきます。
もしあのまま前へ出ていたら。
僕も落ちていたと思います。
その場に座り込み、しばらく動けませんでした。
帰宅してから、もう一度事故の記事を読み返しました。
その中に、以前は気付かなかった一文がありました。
『現場の柵は事故後、安全対策のため右へ約1メートル移設された。』
背筋が凍りました。
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